moviefrog

ナショナル・シアター・ライヴ 2019 「イヴの総て」のmoviefrogのレビュー・感想・評価

3.6
映画史におけるバックステージ物の代表作、1950年公開映画「サンセット大通り」と「イヴの総て」はどちらも後年舞台化されているが、正直どちらも舞台化に成功しているとは言い難い。

今回のNTL「イブのすべて」は初・舞台化。イヴを演じるリリー・ジェームズの、悪に転じた瞬間の演技はこの作品の最大の見どころ。決してつまらない作品ではない。

ただ....演出がどうにも散漫。イヴォ・ヴァン・ホーヴェが映画脚本に惚れ込み、ほぼ改変なしに舞台化しているが、舞台処理が無理な場面はスクリーン映像で補完、という演出になっており、それがあまり効果的ではなく意外と興をそぐ。それ本当に必要?と疑問を感じる場面が多々ある。

舞台セットはほぼ固定なので、そこが楽屋なのかホテルなのか自室なのかの境界が曖昧なうえに、セットと衣装の色調が似すぎており視覚的に集中しづらい。山場や盛り上がりにも欠ける。

舞台上で話されている内容は明らかに旧時代的なのに、衣装や髪型や小道具は明らかに旧時代のものではない。かといって、どう考えても2020年の話でもない。「芸能界のドロドロ」を描く上で、SNSもスマホも出てこない「現代」は有り得ない。結果「これは一体いつの時代の話?」というモヤーっとした割り切れなさが常に頭から離れない。これもこのドラマに集中できない一因だと思う。

イヴォ・ヴァン・ホーヴェはNTL「橋からの眺め」のミニマムでモダンな演出が本当に素晴らしかったが、今回の演出は魅力が薄い。

1950年の映画を2020年に舞台化することの意味、必然性が正直あまり感じられなかった。クラシック映画の舞台化というのは本当に難しい。
moviefrog

moviefrog