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あなたの名前を呼べたならのmia0708のレビュー・感想・評価

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)
3.9
19歳で夫と死別し、村の因習で一生「未亡人」として扱われるラトナはファションデザイナーになることを夢見ながら大企業の御曹司として大都会ムンバイで暮らすアシュヴィンの元でメイドとして仕えている。

映画はラトナのメイドとしての生活を淡々と追いながら、階級制度や格差社会に縛られる2人の恋模様を綴っていく。

田舎者である事や自分の身分を嘆いたりしないラトナは自立した女性であると同時に、逆説的に自分を縛るしがらみを誰よりも意識している。

一方のアシュヴィンは上流階級でありながら傲慢さを微塵も感じさせない優しいナイスガイ。けれど、兄を亡くした事で家族の期待を一身に受け窮屈さを感じたり、婚約者の裏切りに塞ぎ込むナイーブな面もある。

傷心のアシュヴィンがラトナに静かに惹かれていく。。。
その心中には夢に向かい輝いていく女性への憧れや、形は違えど生きづらさを共有するラトナに自身を重ねた部分があったのかもしれない。

かくして近くて遠い2人の視線は絡まっていくのだが、単純なシンデレラストーリーにならないのがインドの現実。

ストーリーはシンプルだが、2人やムンバイを捉える映像や漂う空気は鮮やかで叙情的だ。

高層マンションから眺める景色は其々の悩みなど何処かへ吹き飛ばしてしまうように奥深く広大で、時に自分がちっぽけに感じるほど。
対照的に地上には多くの人や商店が立ち並び、その活気にあてられエネルギーを貰える。色とりどりの布地や煌びやかな装飾品は格別に美しい。

そんな服飾品を使って自由に自身を表現するラトナ。
インドの「シンデレラ」には誰かがかけてくれる魔法は必要ない。王子の出現を待ったりもしない。美麗なサリーを身に纏い、心に勇気を持って生きていく。
なりたい自分になるのに、誰かの許可は必要ない。と、この映画は教えてくれる。

メイド仲間との息抜きの場所であるマンションの屋上。そこはメイドとして振る舞う事から解放され、自分の言葉と表情を浮かべられる唯一の場所。

そこでのラストシーン。
ラトナの言葉と共に剥がれ落ちた感情が、夜の空にふわりと舞って消えていった。
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