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罪の声の小のレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
3.5
2回観てしまった。1回目は「良くできていると思うけど、ノレなかった」という感じ。背景説明の台詞が多いうえ、登場人物が多く、謎解きが次々と進むため、自分の頭ではついて行けずちょっと寝落ち。謎解きへの集中力が不要になった2回目は「ヒューマンドラマとして楽しめたけど、そういうことでいいのかしら?」とモヤモヤ感が。

原作は、日本における屈指の未解決事件「グリコ・森永事件」について、取材を重ねたであろう作者による事件の見方を、脅迫テープに声を使われた子どもたちの側から描くことで、単なる取材ノートではない物語に仕上げた作品、なのかな。

文庫本544ページを2時間半に満たない映画に上手くまとめたらしいことを高く評価する見方があったけど、自分は未読なので良く分からず。「説明、多すぎじゃね?」という印象で、人物の名前を表示するのは、再現ドラマ風なのかしら。

犯人像については、いかにもありそうで、良く調べ、良く考えたなあという感じ。真実が明らかになることで示される事件の空虚な意味と子供たちの行く末とかは上手く考えてられている気がする。

ただ、釈然としないのが、時効となった事件の真実を明らかにすることの意味。劇中、阿久津英士記者(小栗旬さん)に詰問された社会部事件担当デスクは、答えに窮したのか逆質問で煙にまく。「それでいいのか、阿久津」と思ったけど、話が進まなくなるから仕方がない。

未解決事件の真相を明らかにすることは、社会全体の不安を取り除く一種のセラピー効果があるような気がするので、個人的には決して無駄ではないと思う。しかし、いかなる理由を持ち出そうと、新聞社がこの事件を取り上げる動機は、記者たちがプライドを回復することと自身の知りたいという欲望を満たすことの方が大きいよう描かれている、と思う。

本作では真実を明らかにすることの良い部分だけが描かれる。一方、負の面については、「声」の1人、曽根俊也(星野源さん)が阿久津に対しぶつける言葉によってエクスキューズはしているものの、結局のところ真実を知りたい曽根が阿久津とバディ化し、ないことになってしまう。

昭和世代以上の人であれば誰もが知り、何らかのトラウマになっているであろう大事件の結論が「大人のエゴの犠牲になる子どもたち」みたいなことだけでは、ちょっと物足りない気がする。報道機関が報道を通じ、国民の知る権利を充足しているというのであれば、この物語の事件の根源である「金主(きんしゅ)」に迫ってもらいたかったなあ。
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