白瀬青

罪の声の白瀬青のネタバレレビュー・内容・結末

罪の声(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

MIU404のヒットの直後ということもあり、脚本家の名前やバディ萌えで売る記事も多いが、こちらの映画は原作付きということもあり、同じく社会派ミステリではあるがほぼコメディ要素のない硬派で実直なミステリである。しかし(原作を未読のため、原作と脚本のどちらかのセンスかは断言できないが)アンナチュラルやMIU404で惚れ込んだ人の描かれ方の緻密さと社会問題の切り込み方は活きている。

そんな硬派でシビアな物語の中、ただひたすら、主人公コンビの「まっとうさ」に救われる。

平成最後のお祭り的に過去の大事件(グリコ森永事件が明らかなモデルになっている)を引きずり出して記事を書けと命じられるのは小栗旬演じる文化部記者。なぜ文化部が社会記事を書いているのかと言えば、事件の被害者への心無いインタビューを繰り返す日々に耐えられなくなり異動を願い出たのである。そんな記者の書く「エンタメとして消費されたくない」記事は最終的にたったひとりだけ、関係者の人生を救うことができる。記者が主人公であるからには記事が人を救う展開には観客も救われる。シビアな話であるからこそ。
もう一人の主人公は星野源演じるテーラーの店主だ。性格穏やかで質の良いスーツを仕立て、妻子と幸せに暮らしている育ちの良い青年だ。しかしまっとうに生きてきた彼の家から過去の大事件の脅迫テープが出てきて、それが自分の声を録音したものであったことから、事件の真相を追い始める。
前半、やや地味で退屈なそれぞれの捜査シーンが続くが、二人が出会った瞬間から互いの持つ情報がパズルのように絡み合い、事件の真相が予想以上のスケールに広がっていくのは爽快だ。

この映画の最大の魅力は脇役の良さにあり、特に「脅迫テープに使われたもう一人の子供」の演技が効く。この生島姉弟の役所は実質上の主役と呼んでも差し支えなく、演じる俳優は子役から現在の姿に至るまで印象的な名役者をそろえて作品の背骨を支えている。特に成長した生島弟周りの脚本と、それを演じる宇野祥平の演技なしにこの作品は無い。育ちの良い主人公達には想像もつかない地獄の人生を歩みながら、強い情動や露悪による「泣かせ」を慎重に抑制している。
だからこそ巻き込まれた人間達のやるせなさに打ちのめされる。なるべくしてなったことでもあり、理不尽な運命でもある。誰しもが一度は願ったことのあるちょっとだけ贅沢な願いが、知能と情熱だけはあるが心のない人間によって弄ばれ、ほんのこれだけの協力が家族の人生を巻き込んで狂い始める。
日本のエンタメフィクションで軽やかに美化されがちな「ヤクザ」と「人を利用して高邁な革命家ぶるインテリ」、そして彼らに人生を狂わされるのには「このくらいのこと」ほど恐ろしいのだということをここまでシビアに描いた作品は無いのではないだろうか。

作風は淡々として、ぼうっと見てしまえば地味な作品ではあるが、ひとたび考え込んでしまった部分のどこを噛みしめても忘れられない苦みになる。
これは罰か、いやでもこんなささやかな幸福の願いが罪なら誰しもみんなこうなっておかしくはないのだという整理のつかなさに主題歌の歌詞が重なって、呆然としながらエンドロールを眺めていた。
白瀬青

白瀬青