回想シーンでご飯3杯いける

罪の声の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
2.8
京都でテーラーを営む男が、父親の遺品の中から1本のカセットテープを見付ける。そこに録音されていたのは男が子供だった頃に録音したと思われる声。やがて、それが35年前に日本を震撼させた食品メーカー脅迫事件で使われたものと同じである事が判明する。

既に時効を迎えていた事件の真相が、この「声」をきっかけに少しずつ明らかになっていく。関西が舞台という事で、テーラーの男を演じる星野源と、新聞記者を演じる小栗旬が、関西弁を使った、時としてユーモラスな演技を披露。真相解明の中で、全くの他人であった2人が協力体制を築いていく展開も面白い。小説を原作とする本作は、ミステリーとして非常に楽しめる作品だと思う。

しかし、本作が、1984~1985年のグリコ・森永事件を題材している点で、その扱いに大きな疑問が残る。同事件は本作で語られている通り、時効が成立した未解決事件である。冒頭20分で描かれる「犯人グループが子供の声を使った」という事以外は、全て推測を基にした創作である。いや、事件当時、大人の声を子供の声のように加工して笑いを取るテレビ番組が人気だったので、犯人グループも面白がって真似しただけなのかも知れず、子供が関与していなかった可能性もある。

原作者と映画版の監督は、この声の主に対する同情や救済の気持ちから、制作に至ったと語っているようだが、そもそもこの「声」の主が特定されていないのに、想像力逞しくドラマ化し、同情だ救済だと叫ぶのが、果たしてどのような意味を持つのか、僕には正直良く分からない(想像力は、はっきりとフィクションと銘打ったオリジナル作品で発揮して欲しい)。また、捜査を指揮した警察幹部が自殺した事に全く触れないなど、不自然な改編も目立ち、企業名や人名を変えたからと言って、さすがに「いま明かされる、日本中を震撼させた未解決事件の真相! 」の宣伝文句で打ち出すのはやり過ぎに思える。

日本に於いて「劇場型犯罪」という名称を一般に知らしめた事件が、実際に劇場公開された。皮肉な話であるが、それを最も喜んでいるのは、劇場型完全犯罪を成し遂げた犯人ではないだろうか。