ヒロオさん

罪の声のヒロオさんのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
3.8
昭和を揺るがした未解決事件、グリコ・森永事件を題材としたサスペンス。

グリコ・森永事件とは、1984年に起こった、食品関連企業を標的とする脅迫事件。
犯人グループは、グリコ社長の誘拐および身代金要求、菓子への毒物混入などを行うと同時に、警察やマスコミに対する挑発を繰り返し行った。
未解決のまま時効を迎えており、犯人像やその狙いを巡っては様々な説が残っている。

本作では、子供の頃、脅迫音声に声を使われた男性が記者と出会い、35年の時を経て事件の真相に迫っていく。

重厚なストーリーで面白かったのだが、消化不良も残り、すっきり感はなかった。
登場人物が多く、犯人グループに関する手がかりが四方八方から見つかるのだが、中には枝葉末節なものもある。
後で振り返ってみると、あれはどうなった?という点も多く、風呂敷を広げた分、回収できていない箇所があった印象。

犯人グループの動機も、いまいちピンとこなかったが、動機の一つとして、学生運動と事件を絡めていたのは、個人的にはエモみがあった。
「正義」を目指しながらも、徐々に本質を見失い、暴力へと向かっていった学生運動の構造は、本事件の辿った道筋と似ている。非常に皮肉が効いていて良い。

また、作品の根底にジャーナリズムの精神があった点も良かったと思う。
本件への取材を通じて、小栗旬演じる記者は、社会部記者時代の葛藤と改めて向き合い、過去の事件を掘り起こす意味を問い直す。
そして、事件の裏に埋没した、弱い立場に置かれた人々の存在に辿り着き、その声を世に伝えることができた。
セリフが的確で余計な尺を費やすこともなく、また内容にも納得感もあったことから、原作の質の高さを感じた。
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