ヨーク

アメイジング・グレイス アレサ・フランクリンのヨークのレビュー・感想・評価

3.9
俺は音楽のことはよく分かんないし、ソウルもゴスペルも全然詳しくないんだけど面白かったなぁ。いいもん観たなぁ、という感想がまず第一に来る『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』でした。
どういう映画なのかというと、もうどうもこうもねぇよ! としか言いようがなくてアレサ・フランクリンが歌う。それだけです。いや、本当にそれだけ。アレサ・フランクリン大いに歌う、とかそんなタイトルでもいいんじゃないかなと思うほどだ。
先日地上波で放送されて改めて話題になっていた『ボヘミアン・ラプソディ』は一番の見せ場はラストのライヴエイドのシーンなんだけど映画としてはフレディの伝記映画になっているのでお話としても楽しめるようにはなっている。しかし本作は『ボヘミアン・ラプソディ』でいうならば最後のライヴエイドだけで一本の映画になっている作品なのだ。まぁライブシーンだけで構成される音楽の記録映画とかは他にいくらでもあるので特筆するほど珍しいということもないが。最近なら『真夏の夜のジャズ』が淡々とライブ映像を流すだけの音楽記録映画として素晴らしい作品だった。本作もまぁひたすら音楽を浴びるだけの90分ということでめっちゃいい音楽ドキュメンタリー映画でしたね。
良かったところは色々あるが、まず舞台がバプテスト教会でいわゆるステージと客席の区別も曖昧な場だということが凄く良かった。俺は頻繁に教会に行く人間ではないのでその辺詳しくはないが、一般的な教会ではミサのときとか神父なり牧師なりが説教をしたりもするだろうし、そのために説教をする側の立つ位置とそれを聞く信者側の席という区分けは当然あるのだろうがその距離感というのはせいぜい小中高校の教壇と生徒たちとの間にある程度のものだと思うのだ。間違っても東京ドームとかさいたまスーパーアリーナの舞台とアリーナ席ほどは離れていないだろう。それくらいの距離感でアレサ・フランクリンがめっちゃ歌うしバックバンドもめっちゃ演奏するのである。正直映像で観てるだけでも気持ちが上がってしまう。あの雰囲気はただの音楽ライブとも違ってすげぇいい感じでしたね。ブルーノートとかコットンクラブに代表されるようなジャズバーとかだとあれくらいの距離感で演者と客が混然一体となることもあるけれど教会というロケーションも凄くいいなぁと思いました。
あとは本作で映される模様はライブはライブなんだけど公開レコーディングでもあるということも面白かった。音源として録音されるわけだからアレサ・フランクリンが「今のNG、もう一回」とか言ってやり直すシーンも含まれているのだ。俺もレコーディングライブは何度か行ったことあるけど、あれ独特の緊張感があって面白いんですよね。んで本作でもMCの人が言ってたけど観客のみなさんの歓声も作品の一部になるから気分がノってきたらどんどん声出してね、とか言うんですよ。そしてオーディエンスもそれに応えてガンガン演者のパフォーマンスに対してレスポンスを返していく。そういう場の盛り上がりというのがアリアリと描かれていてめっちゃいいですよ。最高。
なんかそういうコールアンドレスポンスでどんどんコミュニケーションを取っていってその場のボルテージが上がっていくとか、ある種の役割を暗黙の内に理解してアドリブ的に共有するとか、そういうのやらせたらアメリカ人ってやっぱ凄いなと思いましたね。もちろん日本でもライブで凄く情熱的なレスポンスを演者に返すファンはたくさんいると思うんだけど、本作では演者と客の両者のアクションがすげぇダイレクトに行き来してて凄く祝祭的な感じが良かったですねぇ。演者側の方も感極まって来てめちゃくちゃに踊りだしたりするし、客の方もトランス状態にでもなったようにアレサ・フランクリンの近くまで寄って踊り狂って警備員に押さえつけられたりしてんの。もうなんか凄いっすよ。最高です。
ちなみに本作は『ファーザー』とハシゴしたのであのアンソニー・ホプキンスの姿を観た後に「天国では老いもなくみんなで抱き合える」みたいな歌を歌われて、なんかグッときてしまったな。
すげぇ良かったです。
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