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パブリック 図書館の奇跡のmegurosのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.0
「ホームレスの命はどうでもいい」等という人心の劣化に触れ、ハタと思い出して鑑賞した。

舞台はシンシナティ公共図書館。寒波が押し寄せる中、街ではシェルターが不足し、行き場を失ったホームレス達は図書館に立て籠る。図書館司書ながらその平和的デモに参加したステュワートは、スタインベック「怒りの葡萄」から一節を引いてTV局の電話取材に応える。

“人びとの目の中には、失敗の色がうかび、飢えた人びとの目の中にはしだいにわきあがる激怒の色がある”

干ばつと砂塵によって耕作が進まず、機械化と大規模化を果たした農業資本家の前に土地を追われた「怒りの葡萄」における小作農の一家は、いま気候変動によって引き起こされる激しい天災と”上級国民”との間の格差に苦しむこのホームレス達ではないか。

最も重要なのは”その彼らは我々なのである”という感性であり、その感性を共通理念として我々の社会は成り立っていることを再確認することだろう。ホームレスと自分を隔てるもの、境遇の差は運や巡り合わせでしかなく、このステュワートであればたまたま本と出会ったことによって救われただけだ。ホームレスの中にはかつて国を守った軍人も交じっているが、全てを彼らの自己責任として切り捨てていいのか。飢えた人々の目の中に怒りが湧き上がってしまうこと、それは私たちの社会の失敗であるのだということを、この書、この映画は語りかける。

めぞん一刻的な管理人さんがえらくキュートでどこかで見たことあるな...と思ったらOrange is the New Blackの人だった。立て篭もり系のデモをやる時には最後はああいう形で歌いながら出てくるといいのだなと勉強にもなる。
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