YANAREN

パブリック 図書館の奇跡のYANARENのネタバレレビュー・内容・結末

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

大学で図書館運営に関わる講義を学んでいる。司書経験のある先生が講義中に紹介していた作品。

ホームレスの多い地域の図書館に勤める図書館員が、彼らのため「立てこもり」という手段を用いて社会に実情を訴えかけるというフィクション作品。

図書館は、原則として「誰でも」「無料で」利用ができることになっている。この理由からホームレスは図書館を主な居住スペースとし、閉館まで過ごす。
季節は冬。シェルターが不足しており、寝られる場所がなくホームレスの凍死が相次ぐ。彼らはこうした現実を社会に伝えるために図書館に立てこもるという手段を取る。

この作品を観て「ホームレスは可哀想だ」「この地域にシェルターをもっと設置し彼らを守るべきだ」と考えるのはいささか短絡的な気がする。
ストーリーの都合上、市長選当選を目論む検察官が半ば強引な手段で彼らのデモを止めさせようとする悪役として描かれるが、過剰に利己的であること以外は特に悪いとも言い切れない。彼の考え方も根本は間違っていないからだ。
同様に、「主犯格」とされる主人公の図書館員が正しいと言い切ることもできない。いくらホームレスを守るためとはいえ、公共の場である図書館で彼らを自由にさせ、警察やその他大勢を動かす大規模デモを行うことはあまりにも大胆で全員が納得できるとは言い難い行動だと思う。
ここは鑑賞者に委ねられた部分だろう。

軽妙な音楽やユーモアを交えたセリフの多い脚本から、シリアスな問題をシリアスに伝えず、しかし確実に現実を訴えかけるよく出来た社会派サスペンスだと感じた。
またフィクションでありながら、現実に起こりうる話だと訴えかけるためかほとんど全編に渡ってわずかに手ブレのある映像となっているのが印象的。

昨今の偏向報道への疑問を呈すような場面もある。

図書館員を志す人はもちろん、多くの人が今の社会について考えるきっかけとなる良い作品。
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