Solaris8

パブリック 図書館の奇跡のSolaris8のレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.2
9/5 富山のJMAXシアターでパブリック図書館の奇跡を見た。その日は映画館から近い富山市立図書館で調べ物をしていて、帰りに映画館に寄り、この映画のポスターが目に留まったが、よく見るとエミリオ・エステベスが主演していた。自分自身、映画を観る方では無いが、若かりし頃に出演していたセントエルモスファイアの映画だけは偶然に観た事があった。

映画で取り上げた米国の低所得者層が冬の寒さで野宿出来ず、公共の図書館が占拠されるという事件は実際には未だ発生していないらしいが、発生する可能性は十分ある。公共施設も色んな事態を想定して行動マニュアルを作成している筈で、例えば、自分もパンデミックという言葉はかなり昔から聴いた事が有り、グローバル企業では以前からパンデミックの発生を予想して行動マニュアルを作成していると思う。

映画の中で発生する図書館占拠に至る事件の背景や映画の中で叫ばれる声を挙げろという流れには、山田太一氏の「男たちの旅路」シリーズの「シルバーシート」を想い出す。誰しもが、自分は社会には無くてはならない存在で在りたいという気持ちがある。エステベス監督自身が幼少の時に好きだったと云う怒りの葡萄の使い方が声を挙げろに繋がっているが社会的弱者も集団化して抗議すると底知れぬ力になる。その事をアメリカらしくオブラートに包んでコミカルに描き、日本の図書館でも話題になっていたらしいがコロナ禍の時代で公共性とは何か日本でも考える時期に来ている。

ラストシーンはもう一捻り欲しい感じはするが、幕末の徳川慶喜の様に恭順して丸腰になるのに一番分かり易い体現方法ではある。行政側も事が大きくなり、最後は対話を諦め、強制排除しか解決方法が無くなるが、行政側自体も望んだ解決方法では無いと窺わせる描き方が図書館が政治とは無縁で中立性をアピールする上で都合も良かった。

エステベス監督の前作がスペイン巡礼の旅の話だそうで世の中の動向を予想して面白い映画を作っている感じがするが、監督は良い歳の重ね方をしていると思う。
Solaris8

Solaris8