むぅ

ストックホルム・ケースのむぅのレビュー・感想・評価

ストックホルム・ケース(2018年製作の映画)
3.4
「お、お手伝いしましょうか?」

と、思うほどに詰めの甘い犯人であった。

誘拐事件や監禁事件などの被害者が犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に連帯感や好意的な感情を抱いてしまう心理現象である"ストックホルム症候群"。
その語源となった、スウェーデン史上最も有名な銀行強盗事件として知られる5日間の立てこもり事件である"ノルマルム広場強盗事件"を基にしている。

「結局、相手に可愛いって思わせたら勝ちじゃない?」
とモテる男性2人が言ってたんだけど、気付いてくれるなよって思ったんだよね、と友人に言われた。
確かに一つの真理である。
「まぁ、そうなんだけど"どう?可愛いでしょ?"ってされると冷めない?本人は気付いてない、何なら欠点だと思ってるところを、こちらが可愛いと思ってしまったらもう、坂道コロコロだよね」
と返したら、「あ、それだ」と返ってきた。

イーサン・ホークが、その"坂道コロコロ"タイプの"可愛い"を見事に演じていた。

一生懸命頑張ってるのだが(強盗犯に、頑張ってるも何もないとは思うが)、まぁ上手くいかない。
「そんなに簡単に信じちゃダメだって!」と、画面の中に入ってアドバイスしたくなるほどに、すぐ人を信じる。私がやった方がまだ成功率は上がるんじゃないか、とまで思ってしまった。

そんな犯人なので、人質の言葉や好意ともとれる行動によってどんどん心を許していき、力関係が変わっていくのが興味深かった。

"ストックホルム症候群"
その言葉を初めて知ったのは、矢沢あいの『NANA』という漫画でだった。「お前が俺にこだわるのは、ストックホルム症候群と同じだ」というような発言をしたタクミが私は好きだったので、おぉ...と思ったのを今でも覚えている。
その時は、そんな恐ろしい状態があるのか、と思っただけだったけれど。今思うと、芸能人だった彼女は逃げ場のない追い詰められた心理状態だったのだろうな、と思う。

監禁されたり、人質に取られることは日常的に起こることは少ないけれど、SNSは場合によってはそんな状態を引き起こすのかもしれない、とふと思い怖くなった。

「NANAで誰が好き?」
「タクミ」
「あー、でた。幸せになれない」
「ほっといて」
という友人とのやりとりもついでに思い出した。

数々の物語に出てくる犯人達の中で、個人的には『羊たちの沈黙』のレクター博士が好きだ。
クレバーで冷徹な犯人が好きなので、今作の犯人にはストックホルム症候群にはならなかった。

そんな話を友人にしていた。
「犯人が綾野剛だったら?」
「はい、喜んでってなるかも」
「でも綾野剛が犯人ならサクッと殺されそうじゃない?」
「その感じが良いんです」
「...あっそ」
...好みってなかなか変わらない。
むぅ

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