Anima48

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のAnima48のレビュー・感想・評価

4.2
毎日のようにネットで動画を見たり文章を読むけれど、ものすごく記憶に残る物がたまにある。写真や文章とかは気軽に共有できるけれど、本当に記憶に残るものを作る人は職人というかそういった美意識・スタイルをもった人だろうと思う。

観る雑誌なのか、読む映画なのか、この映画のストーリーというか、全体の構成は本当に雑誌の内容のようで、旅行ガイド(目玉連載?)、3つの特集記事と訃報からできてる。それで特集記事ごとに画面のデザインが変化させている。特集記事で扱っているものは、街並み観光、芸術、政治論議、美食、そして愛。なんとなくフランスっぽいなあって感じがするものでいっぱい。記事の中身は風変りな人々が、一つの目標に到達するように働いていき、やがてスラップスティックなカオスに進み、一転結末を迎える。どの記事というかパートもエピソードの題材やスタイルはかわっていても、風味が統一されて洒落ている辺りが編集長の主義・好みが出ている感じで良かった。また、ライターと編集者の校正やらアドバイス“わざとそう書いたようにすればいい”等のやり取りが折に触れはさみこまれて、まるでそれが編集後記や論説の役割を果たしているようにも思える。今よりかなり前の時期の話なのでライターはすべて記事をタイプライターで書いていて、メールで入稿ではないというあたりが、レトロで、地方紙の手作り感があって素敵だった。

活字の記事、印刷された写真に対する愛着や憧れを映像で描くというのは捻じれていて楽しい。雑誌・新聞を扱った映画はほかにもあるけれど映画が丸ごと雑誌のようなスタイルは珍しいと思う。パステル調の色彩豊かに丁寧に撮られた画面はしっかり作りこまれていて物凄い量の情報が載っている。風変りであったかで肌触りが良いのと同時にどこか異国的、動きは機械的なところもあるのに親しみやすい。画面サイズも切り替わり(ここが雑誌の袋とじ・付録のようで楽しい。)一斉に画面に人々が登場したり、アニメーション(フランスっぽい)や舞台背景のように切り替わったり、見てて楽しい。それがとんでもない速さで過ぎていくので目が飢えるとでもいうのか、もっとしっかり見たいと画面を追ってしまう。

雑誌にはすごく印象に残る写真が載っていたりする、そのページだけ切り取って取って置いたりとかしてしまうことがよくあって、そんな素敵なポスターのような光景が続く。舞台装置のような街の様子がすすけたようだけどとってもかわいいし、絵本の見開きのような画面の中をウェイターが進んでいったり、マネキンチャレンジのようにカオスを描いたり、トウモロコシ畑の中に現代アートギャラリーがたてられていたり、カラフルなデビルドエッグやパイの盛り付けやシンメトリーでどこかノスタルジックな各場面等、趣味の良い雑誌に掲載されている写真のようで、これが雑誌ならしおりを挟んで好きな時に見返してみたいページになるなぁと思う。

エンドロールにバックナンバー?の表紙が出てきて、取り寄せて読んでみたい気にさせてくれる。この映画はお気に入りの雑誌のように何度でも観てしまうんだろう。

・・次が観たいんだけれど、廃刊なんだよね。
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