岡田拓朗

思い、思われ、ふり、ふられの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.1
思い、思われ、ふり、ふられ

恋、それぞれの結末へ。

想像を二回りくらい上回ってくる物凄く純度が高い傑作。
予告やタイトルで想像していたのとはよい意味で違っていて、それが自分の好きな感じにハマっていてとても満足できた。

最初のモノローグが丁寧に伏線回収されていく展開、それぞれの人物への心理描写、物語が進むごとに(タイトルのように)片思いが移り変わっていき、それによって尊く積み上がっていく4人の関係性。
全てが素晴らしくてのめり込める。

終わって欲しくなかった。
本当に4人全員を大好きになれて、映し出される関係性が理想的だと思える。
みんなが望んでいるであろう(モノローグで語られる)世界が、映画ならではのリアリティとフィクションの絶妙なバランスで、違和感なく丁寧に築き上げられていった。

明るく社交的な朱里、 内向的でうつむきがちな由奈、 クールでモテる理央、 爽やかで天然な女性経験の乏しい和臣。
偶然出会ったタイプの違う4人は、 同じマンションに住み、 同じ高校に通う同級生。

誰もが傷つきたくないし、傷つけたくない。
できるならみんなずっと笑顔で、幸せでいたい。
そんな「ここではないどこか」を探している。

時に痛々しくもありながら、タイプの違う4人の主人公全員を肯定して、お互いが交わるからこその成長を感じ取れる。
この4人の中の誰かしらの関係が欠けていたとしても、たどり着けなかったであろう境地。
追う/追われる、好き/好かれるの関係が、入れ代わっていき、支えてたと思っていた人が、実は自分より先にいて羨ましく思う感じなど、青春ならではの人間模様がうまく描かれていた。

それぞれの人物像が物凄く洗練されていて純度が高すぎるけど、ちゃんと入り込める隙も作ってくれてるから、誰もに感情移入できて、誰かに自分を投影することができる。
そして何より誰もを好きになれるのがよい。

恋愛における切なさに胸を締め付けられながらも、それをちゃんと人を変えるきっかけに繋いで、恋愛を超える人間愛にまでそれぞれの関係を発展させていく。
重たい一歩を踏み込んだからこそ、お互いのために進言していったからこそ、開かられる道があることは、恋愛であってももちろんそうだが、恋愛だけによってのみで語られるものじゃない。
恋愛だけじゃなく、夢にも触れていく点もよかった。

10代にとっては恋愛における告白という一歩こそがとても重たいもので、その上高校生となるとそれに将来に向けての進路選択が本格化する。
様々な理由から、自らの意思だけを重要視して物事を進めていくのは困難で、そんなときに背中を押してくれたり支えてくれるのが深く繋がっている関係性の人たちである。
それはお互いがお互いのことを思い合えることで、作り出されていく。

利害関係なく他者のことを思えて、他者のための行動をとることができる。
時に自分の想いを押し殺してまでも、今あるかけがえのない関係を守り、誰も傷つかない平和な道を歩もうとする。
そんな4人の姿に、心を打たれた。

本当に4人の関係が、その積み上げ方も含めて理想的だった。
作品自体はフィクションだが、現実にも起こり得そうなのもまたよかった。

これはみんな優しくて温かい人であることをありのままに信じて生きたい人誰もが好きになれて、満足できる作品じゃないですかね。
全世代におすすめしたい。
特に今泉力哉監督作『mellow』が好きな方は、間違いなく好きだと思います。

P.S.
日本の恋愛や青春を題材にした映画のクオリティが高すぎて驚いてる。
昔のはあまり観られてないけど、最近観た作品どれも本当によい。

この歳になって青春を題材にした作品を多く観るようになったけど、色んな作品を観れば観るほど、あの時期にこそあらゆる人間模様の真髄が詰め込まれてたんだなと感じる。

キミスイよりもさらに磨きがかかり、多様な表情とその移り変わりを見せる浜辺美波さんと北村匠海さん。
そして少女漫画から飛び出てきたような福本莉子さん。
誠実で真面目で優しい人柄が似合う赤楚衛二さん。
みんなとてもハマっててよかった。

ヒゲダンの主題歌も予告観た感じだと合わないんじゃないかと思ってたけど、本編観たらびっくりするくらいハマってた。
それにあのエンドロール(映像)を持ってこられるとたまらないです。
これが『ソラニン』を監督した三木孝浩監督作であることが妙に納得できた。
彼の監督作をそんなに多く観ているわけではないが、根底に好きを軸にした関係を育んでいくことこそが理想であると信じてやまない信念を感じる。
それも1対1だけでなく、複数人の関係でそれを違和感なく積み上げていく。
心が綺麗な方なんだろうなと思う。
岡田拓朗

岡田拓朗