蛇らい

見えない目撃者の蛇らいのレビュー・感想・評価

見えない目撃者(2019年製作の映画)
3.2
ここまで正攻法で魅せる日本のサスペンスものは珍しい。被害者と第三者、犯人と警察の関係が潔いほどに無垢に描かれている。

この作品でおっ!と驚かされた描写がある。主人公が事故直後に失明していく視界と失明後の視界を表現したシーンだ。実際に失明したことがないので解らなかったが、中途失明者は視界が白っぽくなる可能性が高いという。

また、視界がまったなしに失われていく恐怖を追体験できるような映像描写と、自分の無力さの前に弟が犠牲になる辛さの掛け算でいっきに劇中に引き込む。主人公がこの世で最後に目にしたのが弟を失った世界だという救いようのない絶望感が押し寄せる。

しかもファーストカットからここまで一切説明過多になることなく、起きていることをありのままに切り取るという演出で、導入としてのインパクトに即効性を与えている。尺としては短いはずなのに、不自然な唐突さはなく、映画制作における時間感覚を操る技を見れたような気がする。

事件の第三者が高校生くらいの年齢ばかりなので、脚本や演出などに大人とのギャップでクサいセリフや古臭い演出をしてしまうとそこが鼻に付くパターンが多々ある。しかし、ここをしっかりクリアできていて物語の邪魔をしない。

女子高生の無関心なしゃべり方、〇〇らしいよ、知らんけど。のような態度がうまい。日本のティーン世代によく見られる自分の興味のないことや知らないことを棚に上げて冷淡に遠ざける、というかっこ悪さが存分に表現できていたと思う。また、少女買春の界隈で使用されている隠語などが巧みに組み込まれ、実際に使われているかは別にしても、そこに日常性を感じることができた。

一箇所だけ「警察は正義の味方じゃないのかよ!」的なセリフが引っかかった。正しい判断じゃないことを揶揄するならば、正義の味方という幼稚なセリフを使って欲しくなかった。そもそも現代の若者が警察にそれほどまでに信頼を置いているのかは疑問なところである。また、そのセリフへのアンサーとして「警察が正義の味方だってところを見せてやる」というセリフもないなと思った。それまでやや適当に捜査していた警官ならば、冷めた目でまだ青い若者をなじるセリフを吐いて欲しかった。

そして、せっかくレーティングがR15程度なのに対し、犯人vs警察、第三者の構図の詰めの甘さが目立った。マジで殺しにくる犯人が見たかったし、マジで戦う警察、第三者が見たかった。それは同時に生に対する執着の強さを表すことでもあると思う。主人公はこの程度しか戦えない→じゃあどうする?ではいけない。マジで殺しにくる→じゃあ、どうする?ではないといけない。

また、狂気的な殺人鬼というレッテルを貼ったのにもかかわらず、犯人の始末するしないの判断部分に整合性が保たれてしまっているため、一定の安堵が恐怖への足かせになっている。


※ここからネタバレ


犯人のけりのつけ方も大人しすぎる。拳銃で綺麗に撃ち抜いただけではあっけない。そこまで散々残虐な殺し方をしてきた犯人に対して、生易しすぎる。顔面削り落とすとか、首を落とすくらいやっちゃってくれたら素直に拍手をおくれた。手前で警察が脳天を包丁で真っ二つにされたところで、期待値が上がっただけに、ラストでねこかぶられたのが残念だった。

全体的にハンディキャップのある主人公に寄り添いすぎたなあという印象が強かった。あとは、永遠の課題かもしれないがアクションのスピード感。意外とカメラワークや編集で補えたりすると思うので、そこは努力してほしかった。
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