ドント

ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男のドントのレビュー・感想・評価

3.8
 2018年。よろしゅうございました。第二次大戦中、大変な任務を成功させたものの世界の流れを変えられなかった男。老いてあとは死んでいくだけと考えていた彼の元に、政府から「ある要請」(※タイトル参照)が……
 スットコドッコイB級不真面目映画としか思えぬタイトルとジャケ(原題もこの通り)なのにフタを開けたらなんと驚いた。歴史に翻弄され愛を失った男がなりゆきで再び戦地へと向かう、多少のスカしはあれどほぼ終始真面目で骨太な映画で……ほ、本当なんです! 信じてください!! あとビッグフットも出るんです!!
 老人の現在と、目に入る物品により引き起こされる彼の過去・思い出が、タイトな語り口と遊びの少ない撮影でタペストリーのようにつむがれていく。その縦糸と横糸を主人公のサム・エリオットの佇まいが引き締めていく。彼の演技が、容姿と声のトーンがただただ素晴らしい。政府の人間が来た場面での「独り語り」の説得力たるや。彼にはアカデミー賞を含めたなにがしかの演技賞を与えるべきだと思う。
 そして若干スットコドッコイな流れでビッグフットの登場となるのだが、正直ビッグフットでなくても、クマでもチュパカブラでもよい。いわゆるマクガフィンというヤツであるがしかし、ある種おとぎ話めいた「空虚」な脅威であらねばならぬ。何故ならこれは空虚な脅威、しかも目に見えぬ毒を撒く者に再び向かい合う男の物語であるからだ。かつてヒトラーがそうであったように。そしてまた自身が空虚であるがゆえに。
 老人がビッグフットを殺し、やったぜ! で終わる映画ではないことからも、これがひとりの男の人生を描くドラマであることは明白である。これは人生には何かが、「何かしらの中身」があると信じてみようとする男の寓話なのだ。ちょうど本編に出てくるあの品物のように、“中身が何であるか”は重要ではない。「何かがあった」とかすかに信じて生き直してみることを描く作品なのである。
 こんなタイトルでこの内容、新手のサギ映画であるが(言い方!)、よい映画だった。素材が珍味で味付けがリッチな不思議な逸品だ。『老人と海』ですよね。『老人とビッグフット』ですよこれは。
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