けんたろう

初恋のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

初恋(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

血と怒号が飛びまくる恋愛映画。


特報がキメキメにキメてる映画はだいたい面白い。特報のみならず予告さえもキメにかかってきた今作もまた例外ではなかった。

「人生で最高に濃密な一夜が、はじまる。」
「誰一人欠けても、この恋は生まれなかった。」

あのセンスバリバリな特報、予告に何かを付け足すのならば、それは紛れもなく蛇足だ。
そのくらい分かっている。でも我慢できねぇ、野暮は承知で言わせてもらうぜ。



はじめはそれぞれに生き、考え、行動していた登場人物達を交わらせ、物語に急展開を起こすことになった一発の拳。
どうにでもなれのフワフワ状態から、力を入れて瞬間に放たれるあの一撃がもうカッコよくてしょうがない。
ボクサー・ヤクザ・チャイニーズマフィア・ベッキーが交錯し始めるきっかけにも相応しい一発だろう。


以降、加瀬(染谷将太)や権藤(内野聖陽)、ベッキーが中心に「初恋」の舞台を用意するのだが、困ったことに、彼ら脇役が脇役に収まるには勿体ないほど魅力的なのだ。

極道の男としては半人前であったインテリヤクザが、どんどん倫理と仁義を失っていき周りを大混乱に陥れるのは面白すぎる。
時代に逆らってでも自分の道を生きる、このかっこよさには惚れる。
惚気けるだけのやべぇ女が裸足でMADに走り出すのもボルテージがバリバリに上がる。

本当に「誰一人欠けても、この恋は生まれなかった。」というキャッチコピーより完璧な文言は思いつかないほどだ。


また、それらに加瀬(染谷将太)や大伴(大森南朋)が中心になって織り交ぜられるギャグも本当に可笑しい。

「なんか顔つき変わったな。」
喜劇に狂気が覗き込む。
「オレ関係ねぇだろ!!」
「日本の警察舐めんじゃねえぞ!!」
「何撮ってんだコノヤロウ!」
爆速で回るカーアクションにはギャグが潜み、終いにゃワゴン車まで回りまくる。

体の中にクスリをすり込むが如く、緊迫感の中に笑いをすり込まれているため、タイミングやら間やらが抜群に優れていて、幾度も幾度も笑っちまった。


終盤ももちろん最高でしかない。都県を超えた決戦の地が一(いち)ホームセンターとは随分ミニマムだなと思ったが、全くその通りではなかった。

「ユニディは何でも揃ってるな」
とある小売店で繰り広げられる、敵味方入り交じった戦闘は、本作品の群像劇を表しているかのように、やはり最初から最後まで面白いのだ。

中でも、遂に相対する因縁の二人、仁と仁の戦い、この男の勝負には惚れる。
刀と拳の拮抗の末に流した血は、誇りの液体であった。


だがここでは終わらない。なぜなら主人公は他ならぬ葛城レオ(窪田正孝)とゆり(モニカ)(小西桜子)だからだ。
面白いことに2人は裏で何があったのか全く知らず、なんで中国人が拳銃を向けてきたのかなんでベッキーが車を追いかけてきたのか、何も分かっていない。
それでも主人公は彼らだと、最後にわかる。

「極道に朝日は似合わねぇだろ…」
朝日と海の橋に映る夥しい数のパトカーと一台の車。この壮大かつ美しいシーンを演出した脇役は、主人公2人に後を託した。

託された2人は車外へ粉を撒き、ここへきてようやく吠える。
まぁ吠え方が微妙だったとは思ったが(というかそれでだいぶガックシきたが)、それでも最後の最後まで尽きることなく楽しかった。


映画『初恋』、本当に面白かった。