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初恋のsanbonのレビュー・感想・評価

初恋(2020年製作の映画)
3.5
悪くはないが、これが海外の映画賞に招待されたと聞くと恥ずかしくなるジレンマ。

まず、単刀直入に問いたいのはタイトルの意味である。

いや、意味は分かるが意図が分からない。

余命宣告を受けた全てに無気力なボクサーが、ヤク中の訳あり娼婦を偶然助けた事から、ヤクザと中国マフィアの殺し合いに巻き込まれ、自意識を取り戻していく話に「初恋」とは、ただの違和感にしか感じられないのだが。

もしや、内容とのミスマッチが面白いとでも思ったのであれば、正直さむい。

また、これは流れ的にそうなってしまったからしょうがないのだが、韓国映画を観たばかりでこの内容を観てしまうと、邦画の実力不足が如実に浮き彫りになってしまってダメだった。

もう、なにもかもがチープ。

あんな怖い目に巻き込まれているというのに、肝が冷える感覚が全く無いのはヤバい。

まあ、邦画特有の"抜け感"が感じられる点でいえば、いい意味でもヤバかったが。

抜け感とは、言葉を変えると"外し"と言った方が分かりやすいだろうか。

明らかにシリアスな設定と展開を終始みせるのに、状況を理解してない人物を配置する事により、掛け合いのすれ違いを演出したり、登場人物を場違いなキャラ設定にする事により、張り詰めた空気を掻き乱したりと、怖さを感じない理由を"緊張と緩和"を取り入れる事で出来る"敢えてのコメディ要素"と捉えると、良かった点はまああったと思う。

しかし、それが悪い点にもなり得る。

先述したように、設定と展開は終始シリアスに進行するのに、全然怖くないのは逆にまずい。

ましてやこれが海外にも流れたとなると、外国人にこの日本特有のノリが理解出来たのかがなんかとても心配になる。

そこが理解出来なければ、今作はただ荒唐無稽なだけの、リアリティ度外視の安っぽくて浅い茶番劇にしか写らないのではないだろうか。

実際、日本最大の弱点である低予算のクオリティは健在で、首が吹っ飛ぶなどのやんちゃな映像が多い割に、作り物感は全く隠しきれていないのだから、これが日本映画の底の浅さと捉えられ呆れられかねないんじゃないかとヒヤヒヤする。

ましてや、この映画を作った監督として登壇するのがあの「三池崇史」である。

このクオリティで、タキシードにトレードマークのサングラスをいつものように掛けて登場したら「なんかイキリ散らしたヒョロガリのおっさんがおるで〜」と、嘲笑を食らったのではないかと他人事ながら恥ずかしくなる。

国内限定でやってくれてればいつもの三池節にホッとして観られる映画なのだが、海外進出をした作品という付加価値が付くとどうも気楽には楽しめない作品であった。

それにしても、TSUTAYAのレンタルがBDすら無いDVDのみの貸し出しであるとか、三池崇史監督ってそんなポジションだったっけ??

最後に、余談であるが僕は今作の撮影現場に偶然遭遇した事があり、それが「大森南朋」が「窪田正孝」に殴られてすっ飛ぶという序盤の重要なシーンである事に本編を観て初めて気が付いた。

当時は、会社の帰りに近所でなにかの撮影をやってるのに気付き、撮影隊を横目に歩いていると前方で棒立ちの人にぶつかりそうになり、咄嗟に躱して通り過ぎていったのだが、よく見るとその人物こそが大森南朋で、そんな有名人にあわやぶつかりそうになったのかとめちゃくちゃ驚いた記憶がある。

その時はなんの撮影なんだろうとずっと気になっていたが、ようやくその答え合わせが出来たので、そういった意味では今作は観て良かった。
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