はる

はちどりのはるのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.5
観終わってみると『はちどり』ってのは良い題名だと思い感心しました。主人公のウニの葛藤している様はまさに忙しなく羽を動かし続けるはちどりそのものでした。リアルに地団駄も踏んでいますしね笑。中2の少女を取り巻くのは家族に恋人、親友といった難題極まる人間関係。食卓で怒鳴り散らかす父親、いつも気怠そうな母親、暴力を振るう兄、相部屋に男を連れこむ姉。どれもリアルかつ、これらの問題が解決していくような物語でもありません。両親兄妹色々思うところはありますが、個人的には特に母親が気になりました。ネグレクトとまではいかないものの子供への興味関心が劇中ほとんど感じられません。そしてその事にウニも相当心を悩ませているのが分かります。冒頭の部屋を間違えるシーンや街で呼びかけても振り向いてくれないシーンがまさしくそれですよね。まだ中2の娘が何度も病院に通うのに一度たりとも付き添いに来ようともしないってのがどうかしてるんじゃないのかと思ったりもしましたし、兄から妹への暴力を認識しながら解決する気がサラサラなかったりするんですよね。問題の根が相当深いんですよこの家。そりゃ地団駄も踏みたくなるよなって感じです。あと印象的なのはウニには親友がいるんですけど、その子に唆されて二人で万引きするんですよね。案の定バレて店長にシメられるんですが、そこであっさり友達を売るっていうね。後で怖かったの〜なんて感じで復縁するんですけど私だったら絶縁しますね。兄貴のパンチ並みのインパクトありますよあれは。まぁ周りがそんなんばっかだから大変なウニですけど唯一心を通わせられたのが塾の講師のヨンジなんですよね。この人も色々訳ありっぽく、休学中らしいんですけど、ウニへの寄り添い方が本当に優しく、時に力強い言葉を掛けてくれるんですよね。ただ急に辞めちゃうんですよね。そしてこれまた急にソンス大橋の落橋っていう実際にあった話が出てくるんですよ。で、そこに運悪くヨンジが居合わせてしまったと。この映画の中で短い期間にウニは近い存在を二人亡くしているんですよね。一人は伯父で、もう一人はこのヨンジ。正直伯父とはそこまで関係はなかったようですが、この伯父さん死因は出てきてないですけど、なんか自殺っぽい空気あるんですよね。中2という多感な時期に唐突でイレギュラーな死が目の前に振りかかるってのは一体どういう気持ちなんでしょうか。何にせよそれでもまたチヂミを食って生きていかなきゃならない。理不尽だし許せないし受け入れられない事は山のようにある人生でも羽を動かし続けなければ生きていけないという事を中2の少女を通して改めて痛感させられる作品になっています。監督のキム・ボラは本作が長編デビュー作ということですが恐ろしい才能だと思います。正直話しだしたらきりがないほど、構図なり撮影なり素晴らしい部分が山積みです。主演のパク・ジフも抜群の存在感ですし、これからが楽しみです。
はる

はる