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はちどりのkのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
5.0
完璧。

またひとつ、誰かと関係性を築く上でのものさしになる作品が増えた。
この作品の繊細さをそっとくるんで贈り合えるような人と、親しい関係を築こう。

本作は監督の実体験を基につくられたそう。
キム・ボラ監督は、1981年生まれ。
何を隠そう、82年生まれ、キム・ジヨンの世代ドンピシャ。

陽の光がすごく綺麗なシーンが多いんだけれど、主人公のウニが正面からそれを浴びることって全然なくて。
お母さんを帰宅途中に見つけて呼びかけても、全然気づいてくれなくて。
万引きして店主につかまってもお父さんは迎えに来てくれなくて。

ウニという小さな小さなフィルターを通して見る世界は、薄暗い。
大人が若者に託す典型的な「希望」の薄汚さとリンクする。
そしてその「希望」は、ウニに向けられていない。

愛されてないわけじゃない。
そんなのわかってる。感じ取ってしまうことが余りにも多く、家族に向かって叫ぶのはなんにも突然なんかじゃない。

"心の中を知ってる人は何人いるか"

誰の心の中も知らない、それがすごく怖い。自分の心の中さえ知らないことに気づくのは、もっと先。

ウーロン茶の湯気や、本を貸したくなる気持ち。
温もりに執着したくなる。
寒いとき毛布にくるまれたら落ち着くようなもんなんだ。
自分を気にかけてくれる人に出会えたことで、頭がいっぱいになる。
「今度ぜんぶ教えてあげる」。その約束が叶わない方が、支えになったりする。

家父長制が絶対的であることが当たり前な社会の中で、シス男性以外の女性をはじめとする人々や子どもが弱者とされ、「家父長制」という言葉がまだ浸透していなかったであろう時代を、"普通に"生きた14歳のウニ。
普通じゃないのは、私たちじゃないよ。

家父長制で本当にがんじがらめになっているのは男性達だということを、突然泣き出す父と兄を通して描いていたのがもの凄くリアルだった。
そして大きな橋がないがしろにされるような社会は、今の脆弱な(と思っている人は一体どれほどいるのだろう)日本にも重なる。

不安定な世の中。思春期だけを特別視しないで。
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