つかれぐま

はちどりのつかれぐまのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
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【蜂から鳥になる話】

多くの人には、過去の辛い体験をプラスに変換する妙な習性がある。「あの厳しい○○が今の自分を強くした」的なそれ。本作は監督の自省的な話でありがら、そんな視点には立たないのが面白い。

少女ウニの話を通して、韓国の儒教文化、経済発展の光と影といった社会的テーマにまでその射程が届く、実はとてもスケールが大きい作品。父親と兄の暴君振りは見るに堪えないが、彼らが涙する場面を入れたのも大きな意味が。私には受け入れ難かった『82年生まれ、キム・ジヨン』との差がここにある。

一番の見所はヨンジ先生かな。
何も言わず、ただそこにいるだけでウニの心が穏やかになる。窓が一つしかないウニの心に、二つ目の窓がついて一気に風通しが良くなるような。そんな「人としての厚み」を醸す彼女が強烈な印象を残す。ホウ・シャオシェン『冬冬の夏休み』の祖父を思い出した。子供には同性のメンターが必要なんだ。

ウニが幼い少女から急に大人びて見えたり、逆にその小ささが心もとなく見えたり、撮り方と演じ方で見え方が変わってくる。思春期の不安定さの表現として素晴らしかった。ウニのイメージカラーである黄色も、そういう意味で見れば中間色。「蜂から鳥になる」その時の色。