はるな

はちどりのはるなのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
5.0
『はちどり』Netflixで観賞しました。
今更の観賞になりましたが勧めてくれた方、ありがとうございます。

本作では1994年韓国を舞台に男性社会、出世第一主義的な社会の中で生きる少女の姿を描きます。妹に暴力を振るう兄、長男の学歴と出世にしか関心が無い父の姿は見ていて本当に辛かったです。しかし、そのような社会は日本でも決して無関係な話ではないですし、自分の内面にもほんの少しでもある問題として非常に身につまされます。私が本作『はちどり』で最も素晴らしいと感じた点は、女性の立場から男性社会を一方的に批判したり、分かりやすい構図や単純な図式化に陥らせなかった点です。劇中に登場する男性、父や兄もまた抑圧の中で苦しみながら生きていた存在だと、彼らがウニの前で人目もはばからず涙した瞬間に気付かされました。

本作では、女性から見た男性、あるいは男性から見た女性という視点以上に、より普遍的な”自分と他者の関わり/繋がり”を描き出します。裏切られまた結びついた親友、ひと夏の淡い恋を共にした後輩、結局分かり合えなかった男の子、塾の先生。しかし、そのような他者との繋がりは崩れ落ちた橋のように理不尽に唐突に無くなってしまいます。大切な人を失い喪失を感じたウニですが、唯一希望があるとすればそれは人は誰とでもどのようにも繋がることが出来るということです。劇中で一点を真っすぐに見つめることの多かったウニが、その場にいた人たちの所作や動き、様々な表情の機微に目を向け、能動的に社会と繋がり始めたところで映画は終わります。
本作は大切な人の喪失の話でありながら、世界に他者が存在することの尊さや美しさを描いた清々しい余韻を残す作品でもありました。起こっている状況や主人公を取り巻く環境の絶望感に反比例するかのような美しい情景、それを捉えるカメラワークがこの世界の本質的な美しさを目一杯に湛えています。
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