にくそん

はちどりのにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

はちどり(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

前評判にたがわぬ面白さ。それに芸術性も。中学2年生の少女・ウニが主人公で、一人称的に切り取られていく日常は辛いことのオンパレード。そのじわじわ悲しい出来事たちも見ごたえがあるんだけど、最後には、そんななかにあっても折れないウニのしなやかな心に映画の焦点が合っていく。観終わりの感じはむしろ爽やかで、羽ばたきをやめないはちどりの姿に素直に感動した。

印象的なシーンが本当にたくさんある。セリフや動きのないまま数秒経つところが結構あるけど、ちっとも退屈じゃなかった。

一番最初の場面からもう良かった。玄関ドアに寄っていた画がぐっと引いていって、そうするとまったく同じ形のドアと窓が並ぶ集合住宅の様子が見えてくるんだけど、それがなぜかすごく怖い。

ちょっと離れた場所から母親を見つけてウニが声をかけたのに、母親がまったく反応しないシーンにはぞっとした。必死で何度も大声を張り上げているのに、まるで届かない。悪夢にありがちなシーンだけど、これがウニの現実。

ウニが病気になって、両親が少しばかり優しく接したときのウニの表情。抑えてはいるけど明らかにうれしそうで、胸が締めつけられる。

漢文塾のヨンジ先生が歌うシーン。先生とウニの関係性は、とても繊細なバランスで描かれていてよかった。同性愛っていうことじゃなく、依存し合うでもなく、ただの同情とも違って、でもまったく同情がないわけでもなく。自然な形で心を寄せ合っている様子は、見て救われる心地がする。

ウニが部屋で飛び跳ねて踊るシーンはいわずもがな。問答無用にいい。クサく見えそうなものなのに、そうならない。それまでに説得力あるシーンの積み重ねがあったのと、当のシーンの塩加減がよかったのと、いろいろ要因はありそう。

そしてラスト。学校行事の出発前、級友たちは周りで数人ずつになって楽しそうだけど、ウニは一人。だけど彼女はやっぱり、この世界に背中を向けようとしない。どんなに裏切られても人間が好きで、人を見るのをやめないし、人を見るその目に期待を込めるのをやめない。映画をずっと一人称的に進めてきたのがここで絶大な効果を生んでいて、充実のクライマックスだったと思う。

短いエンドロールを最後まで見送って、混み合った劇場からゆっくりめに外へ出た。パンフレットを欲しい人が何人もいて、並ばないと買えなかった。裏表紙のはちどりが、かわいく描かれてはいないんだけどなんとなくかわいい。中身はこれから読むので、この感想はガチにただの感想です。
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