ルイまる子

はちどりのルイまる子のレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.6
少女の日々と揺れる心を繊細なカメラワークで捉えた良作。ウニが可愛かった。寝顔の大アップで光っていた鼻の下の産毛(ヒゲ?本人は嫌だろうけど)は途方もなく瑞々しくきれいだった。かわいい丸襟の白いブラウスの制服に黄色いベネトンのバックパックで通学する中学二年生。

【ネタバレあり】
お父さんとお母さんは共働きで餅屋をやっているけど(繁忙期は家族全員で手伝う)、どうやらお母さんも子供時代勉強はよく出来て優秀だったみたいだ。お父さんも同様だが、貧乏で韓国の超格差社会構造のせいで、下層からは抜け出せなかった。なんとか這い上がりたくて(とは言え団地に住んでいるしそこまで貧しくはない)、子どもたちを一流大学に進学させたい。だから、毎日、夕食時、良い大学へ行け、不良になるなと言いきかせている。長男は親からのプレッシャーを妹を殴ることで憂さ晴らししている。その暴力とは関係ないが、ウニの耳の下に違和感を感じてから手術までの経過は本当に可哀想だった。ひょっとしたら顔が変わってしまうかもしれない。ドキドキして、一人では抱えきれないし、不安だっただろう。お父さんもお母さんも心配はしていたけど、子供が本当に欲しい言葉は言えないし、一緒に居てはくれなかった。それに、「おんまー」と何度呼んでも気付かないシーンは本当にこの母は、実体がないのか、この世に居ないのか、と感じた。自分の人生を生きてない。父との喧嘩にしてもいきなり激しくガラスを割ったりするし。不安定な精神が垣間見える。親が与えてくれない愛情不足を埋めてくれた漢文塾の先生は素敵だった。「殴られないでね」という言葉は涙が出た。殴られちゃいけない。子供でもちゃんと自分を防衛しなきゃ、暴力の犠牲者になったままで諦めてちゃだめなんだ。塾の先生に助けてもらえて良かった。でもウニには下級生のファンの女の子も居たし恋もしたし、それなりに楽しいこともある。最後の橋の崩壊は、聖水大橋事件。良い学校へ行けと言うだけで他は何も出来ない無力な親と同様、手抜き工事の橋は中央部分が突然崩壊し多くの人が事故死した。政府は市民を守ってくれない、橋が突然落ちる。不安な未来、大人は当てにならない。でも塾の先生が言ってた、どうしようもない時は自分の指を見る。その指が動くのを見れば、少し安心する。まだ自分は何か出来るかもしれないと勇気が出てくるから。

*【後日はちどりのお母さんについて思ったこと】
未熟なお母さん。家事と家業という労働はしているが、どこか虚ろで自分の人生への熱意が薄い人、こういう未熟な親がしっかり根を下ろしてないから子供に何も伝えられず、子供がきちんと育たないし迷惑なんだな。しかしこの人を責めるべきではないんだろう。社会が悪いんだろうな。社会に反対も出来ずかといって迎合も出来ず自分自身が何をしたかったかも忘れてしまった。死んだみたいにルーティンをこなし、ボヤーっと子育てをしてる。でもそれが彼女の正直な姿なのだろう。彼女は悪くない社会が悪いんだ。お母さんはただ正直なだけだよ、そう監督は言いたかったのかもしれない。
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