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はちどりのmueponのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
3.8
以前から気になっていた韓国映画の『はちどり』を観賞。ネットやSNSでの評判がかなり高い本作。1994年の韓国ソウルを舞台に、14歳の中学生ウニ(パク・ジフ)の視点で、家族や学校生活など思春期特有の思いを恐ろしくも繊細に描く。

アカデミー賞を取った「パラサイト 半地下の家族」が脚光を浴びたことで、日本でも再び韓国映画への関心が高まっていることは間違いありませんが、『はちどり』はその中でも注目すべき作品と言えるでしょう。

以前は一部のミニシアター系でしか公開されておらず観る手段も限られていましたが、現在はTOHOシネマズなどの全国系シネコンで公開されたことでかなり観やすくなりました。

この作品を一言で表現するのは難しい・・・。あえて言うなら思春期に誰もが経験した疎外感であり、安心と居場所を提供してくれる理解者の存在。幼少期にどのような経験をして来たかでこの作品の評価はかなり変わってくると思います。

基本的に起伏が少ない作品であり、派手さこそないものの平坦だからこそ見えてくる主人公ウニの表情がとってもリアル。結末に向けてじわじわとこみ上げて来るものがありました。

空前の経済成長を遂げる90年代韓国の時代背景を完全には理解出来ないまでも、高層の集合住宅に住む親と子の軋轢、無関心、男尊女卑、学歴至上主義、家庭内の兄妹暴力など、現代の日本社会にも通じる空気感をこれでもかと感じることが出来ました。

子どもにとって家族という存在自体が無意識に上の者(両親や兄姉)の機嫌を損ねないように配慮したり、我慢して立ち振る舞ったりしますが、些細なきっかけで自分が理解されていないと感じたときその感情が爆発してしまいます。

「やられっぱなしではだめ」という漢文塾の先生の言葉は印象深いですが、成功体験を重ねられなかった子どもの行き詰まり感やコミュニティー世界の狭さは、少なからずどこかで経験したことがある人も多いでしょう。

あらかじめ決められたコミュニティーに属せなかった時、ただ話を聞いて肯定してくれたり、別の居場所を提供してくれた大人の存在は今でも忘れられません。

しかし、今思えばそんな大人もどこか変人であったり、従来コミュニティーにおける居心地の悪さ、疎外感、生きづらさを感じていたのもまた事実だったのかもしれません。主人公ウニと漢文塾の先生ヨンジとのやり取りを見て、大人になった今だからこそ見えてくるものがありました。

今も昔も、人の価値は学歴や容姿、年収だけで決まるものではないと言われていますが、どこかで皆評価する基準を持っており、他人と比較してしまうからこそ苦しんでしまうことは多々あります。複数の居場所を持っていたり、その場ですぐに環境に変えられる人はいいですが、子どもの時はなかなかそうもいきません。

かつて人生の脇道にそれてしまった時、「子どもは親の所有物ではない」という言葉をきちんと伝えてくれたのは母親でした。この作品で描かれる強烈な家庭の男尊女卑も、どこかで親が自分の子どもを所有物と考え、自分が成し得なかった理想や社会的評価を、子どもという存在を通して獲得しようとしたというところにあったと思います。しかし、そんな思考は子どもにとって悲劇でしかありません。

人との関わりの中で得られる成長。思春期特有の豊かな感受性。静寂の中で描かれる映像美と儚さがどこまでも美しい作品。138分とやや長めの尺ながらも終わってみれば全く長さを感じさせない。大人でありながらもどこか不完全で不器用な家族。抑圧されたコミュニティーの中、静かに羽をバタつかせてもがく少女『はちどり』の姿がどこまでも印象に残ります。
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