あでゆ

ブラック・ウィドウのあでゆのレビュー・感想・評価

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
3.8
◆Story
孤高の暗殺者ブラック・ウィドウの前に、ある日突然「妹」のエレーナが現れる。二人は自分たちを暗殺者に仕立て上げたスパイ組織レッドルームの秘密を知ってしまったため、組織から命を狙われていた。姉妹が頼れるのは、かつて組織によって作られた偽りの家族しかなかったが、レッドルームの陰謀はこの「家族」の再会に仕組まれていた。

◆Infomation
凄腕の暗殺者で世界最高のスパイ、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフが主人公のアクション。超人的な身体能力と、類いまれな美貌を持つヒロインの秘密をひもとく。『アベンジャーズ』シリーズなどでブラック・ウィドウを演じてきたスカーレット・ヨハンソンが続投し、『女王陛下のお気に入り』などのレイチェル・ワイズらが共演。『さよなら、アドルフ』などのケイト・ショートランドがメガホンを取った。

◆Review
『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降のMCUが抱える3つの問題を回避しつつ生み出された、緻密で上手い映画だった。

1.「実は今まで歴史の裏で暗躍していた組織」多すぎ問題
本作は冒頭から『007 ムーンレイカー』の引用から始まるとおり、ブラックウィドウの女スパイというプロフィールを生かして、全編にわたって同作をMCU風にアレンジするというアプローチをとっている。
これはもちろんキャラクターの活かし方としてベストだが、同時に『ブラックパンサー』あたりから顕著になっていた「実は今まで歴史の裏で暗躍していた組織」多すぎ問題も「007」という荒唐無稽なフォーマットを利用することで煙に巻くことができていると感じた。
とはいえ今後「シャンチー」や「エターナル」も出てくるので、正直少々暗躍組織多すぎだろうというノイズも、原作の都合上仕方ないとはいえ誤魔化しきれなくなってくる気がするのだが。
ちなみにこれも「007」を意識しているのだろうが、オープニングで協力してアメリカを脱出しするアバンタイトルアクションからの不穏な家族描写ののち映される、冒頭のオープニングシーンは政治ドキュメンタリー調にもなっていてこれまでのMCUにはないテイストになっており、一見の価値があった。
ただこのレッドルームという組織、そもそもなんで男子禁制なのかがよくわからない。基地の中には男の警備員みたいなのもいたので、前線で戦闘させるのに女である必要はないと思うのだが、単に変態オヤジのドリームチームということなのだろうか。
ブラックウィドウの白い衣装も同じく「007」をベースにしている『MGS3』のザ・ボスからインスパイアされていた。

2.ヴィランをヒーローが倒せなくなってしまった問題
『アベンジャーズ/エンドゲーム』において、サノスとヒーローたちの違いは「全員救うかどうか」だった。
これまでヒーローは多数派が安全に生きていくのに都合の悪い少数派を退治してきたが、ではその多数派と少数派の数がイコールになってしまった時にどうするか?という問答が『アベンジャーズ/インフィニティーウォー』での問いかけだったからである。
だからやむを得ず少数派(サノス一派)を殺してしまったトニー・スタークはその定義上ヒーローではないので命を絶つことになったと解釈しているのだが、その結果フェイズ4のヒーローたちはヴィランを直接キルできないという縛りを抱えてしまった。
当然この作品もその煽りを受けているわけで、それだけに悪役を倒すというカタルシスについては本作には存在しない。

3.『アベンジャーズ/エンドゲーム』で上がり切ったスケールのデカさを一旦下げて元に戻している
ハードルを下げるのに彼女以上にうってつけな存在はいないはずだ。
とはいえ2から引き続きの問題にはなるのだけれど、特にタスクマスターの扱いに関しては顕著で、せっかくアベンジャーズの技をコピーして使うという面白い設定があるにもかかわらず、キメになるアクションシーンもないままにその役割を降りてしまう。
タスクマスターがブラック・ウィドウと二項対立しているというのもわかるんだけど、これに関しては『007/スカイフォール』のようにヴィランが単純にヒーローのスケールダウンになってしまっているため、構造的に盛り上がりにくい作りになってしまっているのもカタルシスを排除する要因となってしまっている。

余談だが、レッド・ガーディアンのアクションもまともにないのも不満だった。むしろ序盤のフローレンス・ピュー演じるエレーナとのアクションシーンの方が、やや『アトミック・ブロンド』を思わせるような出来に仕上がっていて良かったほどだ。
とはいえ、制約の中で「家族の構築」というテーマでヒーローとヴィランの二項対立を生み、最終的に両者が戦わなくていい理由を作るというのは悪くはなかった。
MCUはまったくアクションやSFを撮ったことがないけど別のジャンルで活躍している監督を連れてきて、MCUとジャンル自体を融合させるという手法が本当に上手いとおもった。

色々言ってみたのだが、とにかくフローレンス・ピューが最高すぎたので、見てよかったと思う。彼女の演技力が高すぎて、彼女のフィルモグラフィーは全て追いたいと思えるものになっている。ブラック・ウィドウ2世の今後にも期待。
またどうでもいいけど、スカヨハの少女時代はミラ・ジョヴォヴィッチの娘なのも目がいってしまう。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』での彼女の選択の理由を補強するものにもなっており、色々な問題を解消しながらも一本の作品として成立させた非常にうまい脚本になっていたといえる。
ただもうスカヨハの染髪ネタイジるのはいい加減可哀想なので、ここいらで勘弁してやってほしい。

開幕の前に流れた全タイトル総さらい映像にすごく感動してしまって、そこが感情のピークだったのは内緒。
フェイズ4全体に言えることだけれど、今んとこ世代交代を延々と見せられているだけなのもそろそろくどいと感じるようになってきたので、『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』は本当にハードルが上がりまくってると思います。
あでゆ

あでゆ