MasaichiYaguchi

映画はアリスから始まったのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

映画はアリスから始まった(2018年製作の映画)
3.8
パメラ・B・グリーン監督が、ベン・キングズレー、ジュリー・デルピー、アニエス・バルダ、マーティン・スコセッシといった映画人や、生前のアリス自身へのインタビューや彼女の親族へのインタビュー、フッテージ映像などを通して描く本作は、リュミエール兄弟やジョルジュ・メリエスと並ぶ映画のパイオニアであり、ハリウッドの映画製作システムの原型を作り上げた世界初の女性映画監督であるアリス・ギイが、何故映画史から忘れ去られていたのかの謎に迫る。
アリス・ギイはパリ郊外で生まれ、裕福な家庭で育つが、後に事業に失敗した父と兄が亡くなったため、パリの写真機材会社ゴーモン社に就職する。
レオン・ゴーモン社長の秘書となったアリスは、1895年、リュミエール兄弟がシネマトグラフで初めて映画を上映した場所に立ち会う。
そして社長の許可を得て、翌1896年、第一回監督作品「キャベツ畑の妖精」を完成させ、世界初の女性映画監督となる。
リュミエール兄弟の「工場の出口」「列車の到着」は、工員たちが工場から出てくる様子や、列車が駅に到着する様子を撮影した記録映画だが、アリスは「キャベツ畑の妖精」で、世界で最初に物語映画を監督した。
本作に出てくるフランスの大手映画制作会社“Gaumont(ゴーモン)” は映画通なら誰でも知っていると思うが、その黎明期にいたアリス・ギイの存在は、インタビューに登場する著名な俳優や監督たちの大半が口々に彼女について「知らなかった」と答えていたように、私も名前さえ知らなかった。
本作を観ると、映画の“物語る力”の可能性を最初に見出したのが女性だったということや、そしてアリスに続いて当時多くの女性監督がいたことに驚く。
そしてアリスの功績と人生を紐解いていく過程で、何故、彼女が忘れ去られてきたのかの理由が明かされていく、映画史的に非常に貴重なドキュメンタリーとなっている。
本作の劇場公開を記念し、アリス・ギイの短編13作品(1898年~1907年)が限定上映されるので鑑賞したいと思う。