アニマル泉

天国にちがいないのアニマル泉のレビュー・感想・評価

天国にちがいない(2019年製作の映画)
4.3
ナザレに住むイスラエル国籍のパレスチナ人であるエリア・スレイマンの10年ぶりの新作。スレイマン自身が映画企画をパリ、ニューヨークに売り込みに行く旅の物語だ。異人から見た道中の欧米社会の日常の奇妙さ、不安、狂気が描かれる。セリフはなく、静かなコントのようなエピソードが脈絡なく紡がれていく。映像はカメラ目線のスレイマンと見た目で構成されるシンプルな編集だ。スレイマンが唯一喋るのはニューヨークのタクシーの運転手に出身を語る時だけだ。スレイマンはただ見ているだけか何かを飲んでいるだけ。やたらと「飲む」映画だ。映像は全て見事な構図である。無人の街だ。パリの場面は佐伯祐三の絵画のようである。シンメトリーの構図も多い。ドアごしなどのフレームショットも多い。誰もいない街に突然群衆が現れる、戦車が走る、戦闘機が通過する、人々がみんな機関銃を携えている。日常に亀裂が入り不安から恐怖に広がっていく。
スレイマンは「2」や「対」が主題だ。レストランで味付けに文句を言うシンメトリーに着席する双子の中年男性たち、二項対立を言い合う会話など、「対」がスレイマンの世界観だ。「反復」もスレイマンの主題だ。果樹泥棒の隣人の挿話は最後まで律儀に繰り返される。車の下に何かが投げ込まれ、その車がレッカー車で撤去され、投げ込まれた物が路上に取り残された。あの物は何だったんだろう?
「踊り」が何回か入る。ラストも踊りだ。
「見上げる」身振りも気になった。
スレイマンの走る車からドローン撮影で海へ、さらに雲の上へ、すると機内のスレイマンになる、このシーン展開は見事だった。
スレイマンの映像は素晴らしい。しかし「時間」を作れない監督だと思う。映画は映像と音で出来ているが一番大切なのは「時間」である。監督は「時間」を作る。観客は監督に作られた時間を受け入れるしかない。だからこそ監督は時間を自在に操って、観客を没入させて、感動、興奮、陶酔させなければならない。
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