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天国にちがいないのzogliのレビュー・感想・評価

天国にちがいない(2019年製作の映画)
3.5
チャーミングなスレイマンおじさんとめぐる世界の街角 って感じ
low keyで退屈なのにおかしくて、独特の不思議なムードとテンポ
夜に自宅で観てたら寝るだろうけど、劇場で観てきた今日は一瞬たりともつまらないシーンが無くてずっと笑ってたし、なんというか観ているこちらの心の余裕というか精神状態でどちらにもでも傾きそうな雰囲気を持っている

スレイマン監督は主演だけどほぼ全く喋らない、でもカメラワークもスタイリングもバチバチにキマっててずるい
海も空も広場も公園も庭も路地も全ておしゃれで本当にずるい

無人のパリ面白かったし、汚ったないニューヨークのマンハッタンの路地とか懐かし過ぎてすぐにでもまた行きたくなったしあのファラフェルのベンダー(銀色の屋台)とかも交差点のたびにみかけたし、ほんと旅行欲を刺激しつつも満たしていく擬似トリップ映画な側面があって自分にはめちゃ合ってたしちっとも飽きなかった

それに加えてシニカルなコメディ作品でもあった
パレスチナにしてもパリにしてもニューヨークにしてもちょっとブラックで皮肉の効いた小ネタ満載で、(時々狙い過ぎててイマイチなパートもあるんだけど)永遠にクスクスニヤニヤ笑ってられるような
妹の料理にイチャモンをつける兄弟と全く同じタイミングで酒飲むやつとか、目隠ししてお嬢さんを誘拐してるらしい謎の警官(汚職警官なのかな)がサングラス交換しあってバックミラーで顔を確認してたりとかほんとあり得なくておかしいし、フランスの常に3人以上で何かしらに乗って行動する警察官とかアンビュランス宅食(ホームレスだけど しかも枕の下から酒出して飲んでたけど)とか、弱者を押し除けるように公共スペースでベンチの奪い合いをするやつとかも笑わずには観ていられない 装甲車と騎馬隊の対比も楽しい(追従する馬糞清掃車も!)
銃社会アメリカへの皮肉とか、ハロウィンで盛り上がりすぎるニューヨークとか、パレスチナ人の集会の謎のバイキングクラップ的拍手とかも、とにかくほんといやいやありえねぇから!っての満載かつこの都市はそんな感じだけどそれ誇張すんのかーってのとが絶妙にミックスされてて画面の隅からすみまでおかしい
そんな中で『作品中でスペイン語でなく英語を話せだなんてそんなの台無しだ!』と映画会社?で憤慨して電話をしているメキシコ人俳優ガエルガルシアベルナルが、パレスチナとイスラエルを混同しているらしい電話口の会話相手に『パレスチナはパレスチナだよ』とわりとぼんやりとテキトーな事を言ってて、ああ多くの人たちは自分たちの民族的ルーツは大切にするのにパレスチナ人達の事には無関心なのだ、自分たちを大切にするようにパレスチナも尊重しては貰えないのかというメッセージが(監督は全く喋らないのに)込められているようで、なるほどたしかになーとか よくガエルはこれ引き受けたなーとか いろいろ考えてしまった

ただ、ラストの戻ってきたパレスチナはクラブで酒を飲み肌を出し身体を寄せ合って踊る男女や男性カップルの姿が映し出されていて、音楽こそ現地っぽいエキゾチックなテイストだけどわたしの知るどのパレスチナよりも先進的で現代的で寛容だったのでものすごく驚いたし(以前に観てるパレスチナ作品が、どれも特にイスラム教系のアラブ人メインで伝統と信仰に挟まれてガチガチにしんどいやつばかりだったので 同じ地域でもこんなに解放的で価値観がアップデート出来る前衛的で現代的なところもあるんだなと)思わず泣きそうになった

ナザレはキリスト誕生の地であるが故の(聖書原理主義じゃないけど)頑なに守ってきた伝統があるだろうし、直前の伝統衣装に身を包んだ女性のシーンあるいは冒頭のキリスト教の儀式と終幕直前のシーンの対比がなんだかものすごくて『変わらないものや守り続けているものもあれば、時代と共に新たな価値観を取り入れて変わりゆくものもやはりある』って事を表現してるのだと思えたので、なおさらクラブ音楽で終話なのは意外なようだけれど重要な意味と未来への希望が含まれてるのではと思えたので支持したい

パンフレットがおしゃれすぎて震える
円盤を買って手元に置いておきたいし毎日寝る前にながめたい(途中で眠ってもそれはそれで気持ちが良い)
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