白瀬青

燃ゆる女の肖像の白瀬青のネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

洋画同性愛ものは悲しい結末になりやすいし、結婚が決まっている彼女をモデルにした最高傑作が冒頭に出てくる映画とか地雷だろと身構えてたんですが、そういう人にこそ見て欲しい。

画家のマリアンヌは荒波に隔絶された島へ、お嬢様の見合いのための肖像画を描きにやってくる。しかしお嬢様は図書館と音楽に触れることのできた修道院を懐かしんで結婚を拒み、決して肖像画を描かせようとしなかった。女性画家がないものとして扱われる時代にわざわざ彼女が呼ばれたのは、お散歩友達として招いたと偽って顔を観察させるため。

冥府に迎えに行った妻を振り向いてしまい永久に失うオルフェウスの神話になぞらえた二人の恋と、当時としては充分に強く奔放で鋭く爆ぜる炎のような女性でありながら、定められたところを外れては生きていけないお嬢様と画家とメイドの三様の女性の友情が燃える六日間。

内面をあらわす印象的なシーンにはいつも火が灯り、爆ぜ、あるいはお嬢様が出ていけない崖に青い青い海の波濤が打ちよせる。
刺繍が鮮やかに縫い上げられていくにつれて枯れる本物の花、赤ん坊が無造作に転がされた横での堕胎。
フェルメールのような構図と息を呑むような青が映える画面はどこを取っても絵画のように美しく、無表情の中に炎が爆ぜるようなやりとりの中で素顔が笑顔が綻ぶラブシーンはどこを取っても愛おしくて可愛くて苦しい。

そして何より最高風速の燃えっぷりだったのはラストシーンだ。
こんなに愛しても別れか死しかないとあきらめながら観ていた私には、むしろ別れた後を描くそれが衝撃的だった。
お嬢様には許されない本と音楽への耽溺に憧れてそれが当たり前にある修道院を自由とさえ思っていた彼女はやがて、芸術の都ミラノの貴族に嫁ぎ、夫の資産で好きなだけ音楽を嗜めるようになる。
芸術で繋がった画家とお嬢様の人生はあらゆる芸術で交錯し続け、芸術を通して今の生存と成功を知るが、二人は二度と触れ合うことはない。振り返って失うことは「身勝手だから」「詩情だから」。
それでも生涯その炎は消えることがない、爆ぜるような音楽を噛み締めながら。
白瀬青

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