pepo

燃ゆる女の肖像のpepoのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
-
描かせる、と決断することで自らがその肖像画の真の持ち主になる。振り向かないことで別れさえも選び取って想いを永遠のものにする。
主体的であるということが持つ力を見せつけられる、挑発的な作品だった。

修道院から嫁ぎ先へと送られるお嬢様は仕事も持たず世間も知らないけれど、でも最初から聡明で強かった。
「観察する立場ですから」と自分が相手を見透かしていることを仄めかす画家に、「立場は同じ」と一歩も引かず自分の視点を示してみせる。
そんなエロイーズを見つめて「燃ゆる女の肖像」を描きあげたマリアンヌもまた、頑として自分の人生から立ち退かないという明確な意志を貫き通した女性だ。
彼女達の強さは単に経済的に自立しているとか社会的に発言力を持っているとか、そういう外側からの評価とは関わりのない、人生の基軸に自分自身が居るということの強さであって、そういう意味では互いに相手にさえ依存していなかった。
だからこそ、時代背景は抑圧的で起きた事実だけをかいつまんで要約すればハッピーとはいえないエンドであっても、二人がそれぞれにあの別離を互いへの想いの炎で炙りつくして別のものに変容させることができたのだと思う。

インタビューを幾つか読んでいると監督やキャストが作品や現場について言及する時に「対等」や「平等」という言葉がよく出てくるのだけれど、まさにその「抽象的なアイデアが具現化された」作品だった(監督はアデルエネルを「願望や抽象的な考えを具象化する力を持っている」俳優だとコメント)。
ソフィーの存在はとりわけ効果的だったと思う。二人の恋愛とはまた別のベクトルがストーリーに加わる事で作品内の世界が飛躍的に深まるし広がるし。身重のソフィーが座って刺繍している傍でマリアンヌがグラスにワインを注ぎ分け、エロイーズが料理(立ったまま飲酒したりしながら)している場面が大好き!
「平等」というのは誰も他者の主体性を損なわず、また損なわれない事なのだなとあの「場」を見ていて強く感じた。
心の支柱の一本になる、大切な作品にリアルタイムで出会えた幸せにまだちょっと酔っている。
pepo

pepo