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ポルトガル、夏の終わりのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ポルトガル、夏の終わり(2019年製作の映画)
1.5
[ようこそ、"地上の楽園"シントラへ!] 20点

昨年のカンヌ映画祭にて大爆死したケシシュの新作の影に隠れて、多数の批評家が低評価を付けたアイラ・サックスの最新作。彼の大傑作『リトル・メン』は公開すらされないのに、イザベル・ユペールが主演というだけでカンヌの低評価も物ともせず、秒で日本公開が決定した作品であり、そのへんからも私の苦手な要素が滲み出てくる。しかも、ジェレミー・レニエ、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、グレッグ・キニアなど国際色豊かな俳優たちのアンサンブル、ポルトガルはシントラの美しき情景とくれば、地雷作品なのは確定なのではないか。よほど器用な人ですら有名俳優たちのアンサンブルは胃もたれするほど繊細さに欠けてしまうし、綺麗なロケーションはただ撮るだけの観光映画になりかねないからだ。そして、アイラ・サックスはどっちもやってしまった。私は目が点になった。『彼女が消えた浜辺』の劣化コピーをスペインで撮ったアスガー・ファルハディより酷い。劣化コピーどころか、虚無が広がっているのだ。

★公式が完全なるネタバレしてるけど、気になる人は以下からネタバレ

大女優フランソワ"フランキー"クレモントは一族全員と友人のアイリーンを連れて、ポルトガルはシントラにバカンスへ向かう。フランキーは元夫ミシェルと今の夫ジミーを連れてきており、妙なマウント合戦を繰り広げる二人が気に入らない。フランキーの息子ポールは二年以上前にフラれた女性を未だに引きずっていて、ジミーの娘シルヴィアは夫イアンと正に別れようとしているところだった。シルヴィアの娘マヤは反抗期の真っ只中で、離婚へ向かう母親に真っ向から対立し、一人で海へ。これら一族のカオスの中に連れてこられたフランキーの友人アイリーンは、実は"ポールの恋人になればトントンじゃね"というはた迷惑な発想から招待されたのだが、恋人ゲイリーを同伴しており、早くもフランキーの計画には亀裂が走る展開に。そして、"地上の楽園"とも呼ばれるシントラの街には、縁結びの泉や病気を治癒する奇跡の泉などがあり、ぎくしゃくする家族関係との対比は皮肉として機能している。

登場人物が出揃うと、それぞれが流れとタイミングに身を任せて二人組となって画面に登場して会話を繰り広げる。そして、パズルのようになぜ一族が呼び寄せられたかを解明していくのだ。しかし、時間を掛ける割に内容は薄っぺらで、しかも二人の関係性しか提示されないので、人数は揃っても全体像がクリアに見えてくるまでに時間が掛かりすぎる。そして、クリアになっただけで映画が終わってしまうのだ。シントラにやって来た家族の関係性が分かっただけで映画が終わってしまうのだ。しかも、会話を主体にするにはやっぱり内容薄すぎるし、この手法でモザイク状に人間を繋いでいくには人数が多すぎる。ミシェルなんて、いること自体が不思議なのに全く触れられないのでモヤモヤが残る。

背景の自然とそれに対比するように置かれる豪奢な衣装、そしてスクリプトの上で踊らされる役者たちの演技だけが本作品の残された見所であり、残りは悲惨を極めている。久しぶりに"これが虚無か"という感触を味わった。
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