MasaichiYaguchi

ポルトガル、夏の終わりのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ポルトガル、夏の終わり(2019年製作の映画)
3.1
今年ほど人生を狂わされたと感じた人が多い夏は無いのではないかと思う。
少なくとも昨年末とか今年の初めの頃は、オリンピックで世界中から素晴らしいアスリート達が集まって熱戦が眼前で繰り広げられるのを期待したり、それを観戦に世界中から来日した人々による経済効果を目論んだサービス業界の人々もいたと思う。
そして同様に夏の甲子園を目指していた球児達、国体出場を目指していた若者達も、突然目標を失って呆然とし、失意に沈んでいると思う。
人生は時にどうしようもなく残酷で儘ならない。
イギリスの詩人バイロン卿が「この世のエデン」と称したポルトガルの世界遺産の町シントラを舞台に、自らの死期を悟ったヨーロッパを代表する女優フランキーが、一族や親友を呼び寄せての人生の“仕舞い劇”はシナリオ通りにいかない人生そのもののように儘ならない。
私は本作で初めてポルトガルのシントラという町を知ったが、幻想的な森、縁結びの泉や病気を治癒する泉、カトリックの宗教色の強い歴史的建造物、迷路のような路地、逆に全てを開放するような西の果ての海等、多面的で類い稀な美しさを持っていて一目で魅了されてしまった。
だがその反面、この町の持つ神秘さは人を惑わし、人生において道を見出だせずにいる人を益々“迷子”にする。
フランキーは「夏の終わりのバケーション」と称し、最後のお別れをする為だけに一族や親友を“地上の楽園”に呼んだ訳ではない。
自分が亡き後も“恙無い”ようにと画策したのだが…
演劇や映画のようなフィクションは脚本家や演出家によって如何様にもなるが、実人生は「そうは問屋が卸さない」もので、だからこそ予定調和にはない醍醐味があるのだと思う。