KnightsofOdessa

ホイッスラーズ 誓いの口笛のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[口笛を吹く者たち、密告者たち、そして裏切者たち] 80点

ルーマニア・ニューウェーブの監督たちの中ではかなりアクロバティックな作品群を展開している(と私が勝手に考えている)コルネリウ・ポルンボユの最新作。知名度的には昨年を代表する東欧映画の一本。悪徳刑事、ファム・ファタール(ギルダという名前の目配せも含む)、隠された大金とそれを追うギャングという犯罪/ノワール映画的なクリシェを踏みながら、タランティーノ『レザボア・ドッグス』の骨格だけを取り出したかのような曖昧かつ小さく広がるフラッシュバックで埋め尽くされる。

冒頭、イギー・ポップ"The Passenger"をバックにカナリア諸島はラ・ゴメラ島に降り立った一人の悪徳刑事クリスティは、収監されているギャングのロンダリング担当ジョルトとの連絡のために口笛言語"エル・シルボ"を習得させられる。題名になっている"The Whistlers"とは、この"エル・シルボ"を悪用する犯罪者たちを示しているが、後の展開から察するに密告者(Whisperer)の語感にも繋がってくるだろう。物語はジョルト奪還作戦を主軸に、言及される近過去を人物ごとに並び替えたことでノンリニアに散らばった回想を有機的にリンクさせていき、最終的に人間関係の込み入った二重スパイ物語を一撃で提示してしまう。

"エル・シルボ"はスペイン語なので、ルーマニア語を話すためには口笛を別の形にする必要があり、ギルダとクリスティは新たな、そして二人だけの暗号を作るかのようにルーマニア語版"エル・シルボ"を生み出していく。当然のように、この二人は危機的状況を前に惹かれ合っていくが、結果的に犯罪のための言語を愛の言語にすり替えてしまうあたりは感心してしまう。同じく口笛言語の映画だったチャーラ・ゼンジルジ&ギヨーム・ジョヴァネッティ『シベル』では、生活言語として音声が文字化されていたのに対して、本作品では口で言ったことを繰り返しているだけに過ぎず、どれだけ距離があっても二人が繋がっていることを状態として示す美しさみたいなものが存在していた。

ギルダはファム・ファタールとは言い難いほど思いやりに満ちている上に、クリスティの人生にはその心配性の母親とクリスティ並みに腐敗した女上司が登場する。この二人は"実にポルンボユ的"と指摘されるほど過去作との親和性が高いらしい。ちなみに、クリスティを演じたヴラド・イヴァノフはポルンボユの過去作『Police, Adjective』にも登場し、刑事役を演じている。同作にはクリスティという名前の汚職刑事も登場し、本作品はその続編と目されている。

※これで去年のカンヌも残りドラン、ケシシュ、デプレシャン、スレイマンだけになりました。ケシシュだけはもう無理そうです。