やすやす

キーパー ある兵士の奇跡のやすやすのレビュー・感想・評価

キーパー ある兵士の奇跡(2018年製作の映画)
4.5
「サッカーそしてスポーツに国境無し」
「昨日の敵は今日の友」
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
第2次大戦で激しい戦火を交えた英国とドイ
ツ。おびただしい犠牲者を出し合った両国の
懸け橋となった一人のドイツ人サッカー選手
の生き様を描いた実に感動的な作品だった。

彼のポジションはゴールキーパー。矢の様に
降り注ぐシュートの雨。体を張ってどんなに
守り抜いても失点して試合に負ければ責めら
れる。例え最小失点でも褒められることは無
い過酷で損な役回りだ。
彼は手強い二つの敵と戦うことになる。
〝内なる敵〟は兵士だった戦時中の忘れるこ
との出来ない自身のある体験。トラウマとな
りその後も長く苦しみ続ける。けれど誰も彼
を責めることの出来ない過失の無い〝失点〟
だ。

そして〝外なる敵〟も立ちはだかる。それは
かつての敵兵への根強い偏見と蔑視。
キーパーは守りの要だが時に攻撃の起点とな
る。彼が打ち壊したかったものは憎しみとい
う壁。
観客のブーイングにはあくまでもピッチ上で
好プレーを見せ付けて黙らせる。決して怒り
を露わにすることは無い。黙々と必死でゴー
ルを死守する姿に触れて心を揺さぶられない
人はいないだろう。

また彼を精神的に支え続けた英国人の妻の存
在なくしてこの物語は成立しない。
自身の辛い過去を妻に語る場面は今作の白眉
で吸い込まれる様にスクリーンに見入った。
もはやタイトルは〝キーパーとその妻〟がふ
さわしいとさえ思う。夫婦二人三脚だから栄
光を掴み取ることが出来たのだ。

サッカーの 母国で苦悩を乗り越えて輝いた偉
大な外国選手。その名はトラウトマン。
黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソ
ンの様にスポーツ界におけるパイオニアとし
て永遠に語り継がれるだろう。
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