雷電五郎

キーパー ある兵士の奇跡の雷電五郎のレビュー・感想・評価

キーパー ある兵士の奇跡(2018年製作の映画)
3.8
ドイツ人捕虜だった実在する伝説的キーパーの半生を描いた映画です。

第二次世界大戦でイギリス軍の捕虜になったバートはキーパーの才能を見込まれ、捕虜収容所のあった地域の地元チームで活躍することになる、という筋書きですがありがちに良い話として消化していない部分に題材に対する真摯さを感じます。

ナチスドイツの非道は今や世界の知るところですが、従軍していた人々全員が思想に感化されていた訳でもなく、作中で中には脅されて志願させられたドイツ人もいたことが分かります。
とはいえ、国家の犯した大罪を個人と切り分けて考える、などということは多くの人間にとって非常に難しいことで「ドイツ人」という大別の中で憎悪と怒りを浴びなくてはならないバートの苦悩も、バートを非難する人々の激情も当然と言えることではないかと思います。
個人が個人の人間性を理解できる程互いを知っている訳ではないからです。

作中、マーガレットが口にした「許しを与えるより憎むほうが簡単。あんたたちも加害者よ」という言葉が重いですね。
素晴らしいプレイを通して徐々に受け入れられるも、折に触れて戦時中の自身の罪を思い出すバートもまた、戦争によって傷を負った1人であり、自らに責任はなくとも国の犯した罪に苦しむ被害者でもあるという事実、これを「ドイツ人だから」という理由で許されるべきではないと断言してしまえるならば、戦争に参加したすべての人間が等しく許されべからず罪人ということになってしまいます。
戦争に参加したという点においては数多の国々にその責任があるからです。

この作品は、バートが誠実にプレイしたことでイギリスに受け入れられた感動作品ではなく、戦争という忘れがたい禍根を乗り越え、どのように前を向いて生きていくべきかを問いかけることも主軸に置かれているように思いました。

分かりやすい起承転結がある作品ではなく、淡々としていながら登場人物達が言外に秘める感情の重々しさや凄惨さを感じさせる良作でした。
収容所からバートを車に乗せる監督ジャックとのタバコのやりとりなどクスリとできるシーンがありつつも、端々に戦争の爪痕の深さを窺わせる作りが、ただバートの躍進にそれまでの冷遇の溜飲を下げるだけの物語に留まらないのが一層よかったです。

戦争という背景に向き合いながら偉業を成し遂げた実在するキーパーのストーリーを丁寧に描いた映画でした。

マーガレットを巡るビルとバートのやりとりでPKでケリをつけようと話すくだりはサッカー選手らしいエピソードで笑いが漏れました。こういった細やかなエピソードの造形も素敵な作品です。
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