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レ・ミゼラブルのJTのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.2
避けられない暴力と収まらない怒り
疲弊した社会で何が悪を育てるのか
枯燥した人間の心に善はまだあるか

2020 . 12 - 『Les miserable』

名作ミュージカル映画の『レ・ミゼラブル』をちゃんと観ずして、こちらを先に鑑賞してしまいました
今作の舞台は原作と同じパリ郊外のモンフェルメイユで、そこで蔓延る貧困や差別、移民問題をミュージカルではなくシリアスなドラマで描いた現代版である

怒り狂うことでしか主張できない人間と暴力でしか鎮圧できないこの社会のどこに出口はあるのだろうか
憎しみが連鎖するモンフェルメイユでは、大人も子供も暴力だけを頼りに己を主張して抵抗し対抗する
警察は暴力に暴力を重ね、正義を捨てて汚職を働く
何が正しいか判らない大人の下で育つ子供の残酷さ
犯罪地域と化した指導者のいないこの街は無法地帯だ
悪だけが育つ圧倒的な負の連鎖に善は生まれるのか
暴力に育てられてきた人々の間に慈愛は生まれるのか
荒廃した社会を内部から変えることはもはやできない
この映画のように外部に広げて外から壁を崩し、苦しみと憎しみの出口を作らなければならないと感じた

呼吸を忘れるラストは自分の中で『ジョーカー』と重なった。結末がどっちに転がるかはこれからのわたしたち次第なのだ。否定も肯定もしない怒濤の秀作。
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