バルバワ

レ・ミゼラブルのバルバワのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.6
このクソ忙しい時期に半休をもらえるとは思わなんだ…でも、仕事もスケジュール通りに進んでいるし、自分で言うのもなんですが頑張ったのでご褒美ですよ!←必死

約1ヶ月ぶりの隠れシネシタン活動ですが…私的にも公的にも映画鑑賞自体があまり推奨されてません。
しかし、映画館に行ったら入り口にアルコール消毒が置かれ、座席も1席ずつ空けることなど映画館にとってはあまりプラスにはならないことをし感染防止に努めておられて、軽く泣きそうになりました。

私は映画館が好きで良かったッ…!

映画大好き、映画館だいだいだぁい好き!それが隠れシネシタンだッ!

いやぁ…てめえのことしか頭にねぇな。

あらすじはパリの郊外の街に赴任し、犯罪防止班に配属された警官ステファン(通称ポマード)。早速、同僚二人と街にパトロールに出るが、とんでもない事件に巻き込まれる!…的な感じです。

【多分、住みたくない街第1位】
ステファンが赴任した街モンフェルメイユ(小説《レ・ミゼラブル》の舞台となった街)。大人は横暴、子どもは凶暴…とにもかくにも治安が悪い!私がこの街に住んでいたら秒で丸裸にされますねッ!←確信

【横暴な理由】
前述しましたがこの街の大人達はとにかく態度がデカいです。すぐに自分の強さを誇示しマウントを取ろうとします、それは警察官も例外ではなくステファンがチームを組むことになった同僚のクリスとグワダも態度がデカく、特にクリスは非常に粗暴です。何故彼等は横柄に振る舞うのか…まぁ、元々の素質も多分にありますが、自分を強く見せなければ即座に他者に喰われてしまうからではないでしょうか。要はこの街は弱肉強食の地なのです。

【凶暴な理由】
この街の子ども達が悪く見えるのは、彼等の人格が問題とかではありません。むしろ友達想いの子達が多いのです。では、問題は何か…それは環境ではないでしょうか。
犯罪や大人達の暴力が日常茶飯事…警官だって重装備しないと危ないこの街で健やかに育てというのは難しいでしょう。
「悪い草も悪い人間もない、育てる者が悪いだけだ」…これは今作のエンドロール前に出てくる小説《レ・ミゼラブル》の著者ヴィクトル・ユゴーの言葉です。何が恐ろしいって"育てる者"側である大人達も今の子ども達と同じような状況にいたという負の連鎖が根底にあり、誰かを罰したり、やっつけたりすれば解決する問題ではないということです。

【この1日】
物語の主軸となるステファンが赴任にしてた当日がとにかく様々なことが起こり、色んな人々が登場します。そこである人物が起こした些細なことを追っていたステファン達はとんでもないミスをやらかしてしまい、とんでもない事態に。…結果、この事態に関わった誰もがダウナーな気持ちで1日を終えることに。私個人の1日は大抵しょんぼりしていますが、なかなかこんな誰もがしょんぼりすることになる1日ってないですよね。

【ステファンという男】
きっかけは本当に些細なことだったのにそれが最終的に地獄の釜が開くことになってしまいました。何故こんなことになってしまったのか…それは登場人物のほとんどが自分のことしか考えてないからではないでしょうか。自分の為ならば他者が困ろうがどうでも良く、なんなら陥れることも厭わないという振る舞いをしている連中が多い中…そこに距離を置いているのは主人公ステファン。彼は基本的に善人なのですが街に来たばかりなので無力で傍観せざるを得ないのです。そんな彼に問答無用に感情移入してしまいました。ステファンの立ち位置が『フロリダプロジェクト 真夏の魔法』のウィレム・デフォー演じるモーテルの管理人に似てたり。
彼を通しているから私は今作にグッと引き込まれたのでしょう。

【逆襲】
前述したしょんぼりな1日の後にエピローグがついているのですが、ここから今作は映画ライターのギンティ小林さんが命名した映画ジャンル《ナメてた相手が実は殺人マシンでした》ものに変貌します。ネタバレをしないように書きますとナメてた○○共が、実は過激な武力組織でしたって感じです。
先日のとんでもない事態の発端となったある人物がスカーフェイスばりに憤怒し仲間を引き連れて色んな人にお礼参りをします。この人物の今作のオープニングでの表情を思い返すとやるせない気分になります。
メインとなる舞台はマンションの中で巻き起こり、その凄まじさたるや暗黒ホームアーロンって感じです。とにかく容赦なし、観ているこちらもしんどくなるような展開でカタルシスは皆無。地獄でした。

【揺らぐ心】
物語の終盤も終盤、マンションで巻き起こっている暗黒ホームアーロン展開は遂に人死にが出るか出ないかの瀬戸際まで行きます。この状況で鍵を握るのは三人の男、1人は怒りに身を任せ火炎瓶を投げようとし、1人は仲間を守るため拳銃を今にも撃とうとし、最後の1人はマンションの住人で拳銃を向けている人物とその仲間を自身の部屋に入れて助けるか否かをドアノブを握りながら迷っています。
この三者の表情と憎悪や怒り、恐怖に満ちていた感情が矢継ぎ早にカットバックされ、最後は三者の表情と感情に微かな揺らぎが生じます。その揺らぎの正体を自分なりに考えると、やはり他者の存在ではないでしょうか。ここまで自分のことしか考えていない連中が招いたのこの事態を収束しようと登場人物を動かそうとするのは他者に対しての思いやりや勇気だというのが本当に素晴らしいと思いました。

【最後に】
カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で『パラサイト 半地下の家族』に悉く競り負けてきた今作。確かに映画としての完成度は『パラサイト 半地下の家族』の方が高いと思います。しかし、判官贔屓なことは承知で申しますが今作の方が好きです。粗暴で荒んだ街と人の空気感とか、殺伐とした物語の中にポツンと現れる可愛いアイツ(←何かは観てからのお楽しみ)とか、ラストカットの秀逸さとか…本当に大好きです!
最後に今作を表していると感じたヴィクトル・ユゴーの言葉を貼っておきます。

「生きている者とは、闘っている者だ。」
「第一歩は何でもない。困難なのは、最後の一歩だ。」

暫定今年ベストッ!!
バルバワ

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