アキラナウェイ

レ・ミゼラブルのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.2
ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台となった街モンフェルメイユが、怒りで煮え滾(たぎ)る鍋の様。

いつ噴き出すかわからない。
終始張り詰めた緊張感が漂う。
そして、怒りが沸点に達して弾ける時。
ラスト30分の暴動シーンは必見。

移民や低所得者が多く居住し、危険な犯罪地域と化したパリ郊外の街、モンフェルメイユ。犯罪防止班に異動してきた警官のステファンは、複数のグループが緊張状態にある街の実情を知る。ある日、イッサという少年がサーカス団の子ライオンを出来心で拐(さら)ってしまう。

少年が犯した小さな過ちが、
暴力の連鎖反応を引き起こし、
やがて大きなうねりとなる。

2018年、サッカーW杯のフランス優勝に沸き立つ民衆。その裏側を覗けば見えてくる権力者と弱者のせめぎ合い。

スリーマンセル(3人1組)の犯罪防止班の警官達、市長(と言っても、近所のおじさんみたい)を取り巻くグループ、イスラム系のグループ、サーカス団、そして不良少年達。彼らが絶妙に絡み合い、物語が展開していく。

驚いたのは、警官の態度の悪さよ。
力と恐怖によって抑え付け様とする、高圧的な言動。

正義の執行者が不義を働く。
全ての元凶はここだろう。

1番ワルそうな班長が「Venom」Tシャツを着ているのが面白い。"venom"は元々"毒"という意味だし、人間に宿る悪のアメコミキャラクターとしてのVenomのメタファーが効いている。

監督ラジ・リは語る。
この作品で起きた事は全て事実だと。
そしてこの街こそ、監督の故郷であり、今も暮らしていると言う。

イッサ役を演じた少年がとても印象的だったが、少年達の多くも、演技経験のない、地元の少年達を起用したそうな。

小説「レ・ミゼラブル」でもバリケードが築かれる様に、本作でもバリケードが登場する。築き上げられた壁を境に、後には引けないグループ同士の抗争が生々しく、センセーショナルに描かれる。

映画の大詰め、ラストシーンが堪らない瞬間だったので、以下ネタバレを含んで記述します。
















興奮状態のまま、暴動シーンを見届けた直後に映し出される言葉。ヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」の一節である。

友よ、よく覚えておけ。
世の中には悪い草も悪い人間もない。
育てる者が悪いだけだ。

作品を見届けて、脳裏に浮かんだ思いと、目の前に現れた言葉とが完全に一致した事に驚き、鳥肌が立ち、その瞬間、涙が溢れた。

エンドロールに入る直前のメッセージで泣かされるとは。これは初めてに近い経験だった。

あ、あとライオンのシーンは
僕もちびるかと思った。
サーカス団の団長、怖過ぎ。