ゲタ

家族を想うときのゲタのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
5.0
『どうして…どうして…どうして…』

以前、同ケン・ローチ監督の
『I, Daniel Blake』を観て
あまりの衝撃に打ちのめされて
衝撃から覚めるのに
なかなか時間が必要だったのですが

逆シャアのセリフじゃありませんが
「あの苦しみ、存分に思い出せ!」
とばかりに(分かんない人スルーで😅)

今回もしばらくこの家族のことが
そして社会のありようが
頭から離れそうにありません

ある、人の良さそうな男性が
「うちは成果主義で保障もない
 お前はうちの会社に雇われるのでなく
 個人事業主として登録をしてもらう
 いわばフランチャイズだ
 それでもやるか?」
とぶっきらぼうに詰め寄る男に
面接を受けているところから
物語は始まるのだが…

もう全てがこのワンシーンに
凝縮されている映画(リアル?)です

雇用という形を取らず
リスクを負わず
人を人とも思わない
タイムカードとノルマ達成だけが
評価の対象であるかのような
今の社会の吐き気がするような有様と
持たざる者と持つ者の対比

加えて彼の妻は介護ヘルパーとして
これまた時間制限のルールとノルマに
辟易しながらも元来の人の良さで
訪問看護を生業としている

看護という仕事だから
個々の患者が時間通りにきっちりとなんて
とてもじゃないけど終わるはずもない

彼女のポリシーである
「自分の母のように接しなさい」
という看護の精神を貫きつつも
それが給金として反映されない
非情な現実

そんな夫婦の息子と娘は
こうした生活の厳しさで
両親共に週末しか家に居ない事情から
いつしか親に対して心を閉ざし…

人生をちょっとだけ
ハッピーにしたいという
子供達の何気ない思いつきすら

規則だ、ルールだ、違反だ、制裁だと
踏みにじっていく社会の理不尽さに
慄然として涙がこぼれる

誰が自分の人生を豊かにすることを
妨げる権利を持っているのか、と

家族が家族として
ささやかな幸せすら
守ることさえできない
残酷さと悲哀さ

それがすべてであり
しかもお涙頂戴の作り物じゃなく
極めて現実に近い描写

どうしてこれほどまでに
心に突き刺さるのか
言うまでもない

それはこの映画に出てくるみんなが
誰一人決して「悪人」じゃないから

そりゃ意地悪い人も居る
でも、決して悪人ではない

全員が明日を生きるために
目の前にある最も有効(と思われる)手段
「お金」に必死にならざるを得ない事実

そこがあまりに身につまされます

そして何よりこの映画を観てて
ドキリとして、胸糞が悪くなるのが
iPhoneの無情なまでの着信音📱
あのデフォルトで鳴る奴です

それがひっきりなしに
彼ら彼女らの生活を中断し
狂わせ、掻き立て、不幸を呼び寄せる
そんな存在として使われているのが
はっきりと見て取れます

そして我が身を振り返った時
思いっきりその恩恵(?)に浸った世界に
生きている事実…

これは画面の中の家族を通して描く
我々の映画なのだとズシリと来ました

安易な展開や結論など許さない
またしても傑作が誕生した思いです

いつまでたっても尽きることのない
「どうして…?」がずっと心の奥底で
鳴り響く映画

どこかの国のどこかの馬鹿が
「死ぬまでに2,000万は必要」
とか平気でのたまう政治に、社会に
決然として立ち向かわなきゃいけない

このままだとみんなが
不幸とわかっていながら
仕方ないという諦めで
みんなの人生が衰退していってしまう

遠い地の果ての島国の話だけど
決して他人事に思えない

[18:30]

P.S.
しまった!
パンフレット買うの忘れちゃった😩
ゲタ

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