Shelby

マティアス&マキシムのShelbyのレビュー・感想・評価

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
4.6
filmarksさんのオンライン試写会に見事当選することが出来、グザヴィエ・ドラン監督の最新作を一足先に鑑賞させて頂くことに。
(改めましてfilmarksさん、ありがとうございます!!)
若き才能に溢れ、感性の塊のような映像を切り出すドラン監督のことは以前より注目をしており、過去作もちょこちょことチェック済みだった。
そして彼の描く作品の多くを象るテーマ「同性愛」、「家族の形」は本当に秀逸で、今まで見たことがないジャンルとカテゴライズされるため、注目せざるを得ない監督の一人だった。

そもそもこの作品に興味をひかれたのも、私自身大好きで、大切な思い出の一本となっているルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』に他でもないドラン監督がインスパイアを受け、描いた新たな愛の物語だというのだから、公開が決まった時からずっと気になっていたのだ。

オンライン鑑賞に至るまでに仕事をちょっぱやで終わらせ、帰宅し公開時間となるまで画面の前でそわそわと過ごす。ドラン監督の解釈と表現で新しく生まれ変わり、彼の魔法の手にかかった『君の名前で僕を呼んで』は一体どんな作品になるのだろう?そんなプレゼントを前にした童心の気持ちに返ったような思いでその時が来るのを待つ。

鑑賞していた時間はあっという間で、食い入るように画面を見つめた120分だった。飽きることなく、そして余すことなく彼が描きたかった世界がこの空間に詰め込まれた作品だ。
そしてちょっとだけ言わせてほしい。
ドラン監督は本当に天才だな!!!!
見せ方がずるい!!!
もっと彼のことを好きになってしまった。

備忘録として、あらすじ…
昔馴染みの友人同士であるマティアスとマキシム。ある日仲間うちの妹より映画に出てほしいと依頼され、マティアスとマキシムが引き受けることになる。その映画内でふたりはキスをすることになり、その出来事から互いを見る目が変化し始めてしまう。突如芽生えた感情に戸惑い、葛藤し続け二人の関係性も徐々に変化していく中で、マキシムはオーストラリア行きを早めようとする。

▼以下ネタバレ要素有。

二人の共通点として作中出てきていたのは「指しゃぶり」や「爪噛み」のシーン。子供は「指しゃぶり」で不安感を紛らわそうとするものの、大人の場合はこれが「煙草」に変化するそう。
だが、ふたりが決まって指しゃぶりをしたり爪噛みをするのは極度の不安感に陥っている状態で互いに対峙しなくてはいけないシーンに限られている。その瞬間だけ極度の緊張状態から幼児退行しているのか、それとも、二人とも幼児期のころから愛情が足りていなかったか、過去のトラウマに縛られている可能性があるのかな。
実際に描かれているマキシムの母親は弟しか可愛がろうとしない。彼の家庭環境からしてみたらこの行為は納得がいく。一方、マティアスに関してのバックグラウンドは何も描かれてはいないが、彼も何かありそうな予感…と邪推が進んでしまった。
マティアスが自分の都合のよい記憶しか覚えていないような忘れ癖も、都合の悪い過去を消し去ろうとして自分の平静を保とうとする自己防衛の表れのような気もする。ちなみにマティアスのフィアンセの女性が人格者過ぎて言葉を失った。
いい女すぎてマティアスにもったいないのでは…?

この作品の中で最も重要なキスシーンを観客に見せないことで想像力を掻き立てるカットは本当にずるい…!そして中盤での早送りからのスロー再生。何気ない一つ一つのシーンにもこだわりを詰め込まれているような気がして、すっかり映像に見はまってしまった。

マキシムの出発前に仲間内で開いたパーティでは自分の気持ちの変化にバランスを崩したマティアスが突然喧嘩を吹っ掛け始める。
マキシムに対し「アザ野郎。」と罵ってしまったマティアス。その後、二人っきりになったときに痣へキスをする。

何度も何度も。
ごめんね、そんなつもりではなかったんだよ、と言わんばかりに。
胸が張り裂けそうなくらい切ない愛の表現方法。

もどかしい、いじらしい、けれど、愛おしい。
気持ちが、感情が、バランスを失っていく。

「男だから愛したわけじゃない。
相手が貴方だったから、愛してしまったんだ。」

仕事の疲れなんて一瞬で吹き飛ぶすばらしさ。
鬼才ドラン監督の作品棚にまた新たな愛の物語が加わった。「君の名前で僕を呼んで」とまた一味違ったテイストに仕上がっていた。

ゲイとか、BLとか、LGBTとか、そんな枠組みなんてかなぐり捨てて、一旦ニュートラルな目でこの作品を見てほしい。きっとドラン監督自身、そんな枠組みに当てはめてこの作品を見てほしくないはず。そしていま一度、目の前にある「愛」を大切に、大事にはぐくんでほしい。そんな彼の思いがひしひしと伝わってきた愛の物語だった。
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