フクイヒロシ

マティアス&マキシムのフクイヒロシのレビュー・感想・評価

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
4.0
ネタバレはコメント欄に。


カナダの話なんですよね。フランス語喋ってるからフランスかと思っちゃうんだけど、、、カナダではフランス語が使われている地域がある。


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セリフ以外のことで語る、監督しての力量が凄いですね。

それぞれのキャラが自分の気持ちをストレートに語るシーンってほっっっとんどないんですけど
だいたいのキャラのだいたいの気持ちは伝わってきますよ。


サラッとやってるけどすごいこと。

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とくにマティアスの彼女の複雑な気持ちが伝わってくるのが素晴らしいですね。

演技自体も素晴らしくて
彼女の知的さや理性があったからこそマティアスの苦悩や一歩踏み入れちゃう様子を観客は観ることができたわけです。

彼女が自分の観念以外を拒絶するキャラクターだったら、
マティアスは自分の心の中の探求をする余裕が得られなかった。


マティアスのあの旅は、彼女の旅でもあったわけよ。
彼女はスクリーンに映ってないとこでどれほどの思案を繰り広げていたか。

ちゃんとそれがわかる演技と演出でしたね。


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この映画とは全然違うけど、

「好きな男がゲイだとわかっちゃった女性キャラ」ってのは
映画にとって「便利に」「希薄に」描かれてきました。


ただただ拒絶してその映画から消えるキャラだったり、
突如理解を示してゲイの恋を応援し始めるキャラだったり、
なかなか浅はかな描かれ方が多かったと思います。


今作では、
ほんっとに複雑な感情をセリフなしで
シチュエーションとカメラと表情で伝えてましたね。
映画だねえ。。

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これはやっぱドラン監督の、ちょっとどうかしてるレベルの技量ですよ。

なかなか観られる映画ではない。

この若さで。。


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マキシムの顔の左側には赤い大きなアザがある。
かなり大きいし、結構目立つ赤色。

ドラン監督は「顔に大きなアザがあると、その人本人を見る前にまずアザを見られる」的なことを述べています。

マキシムのアザは触れずにいるのが不思議なくらいなんだけど、友人や家族は一切アザについて触れない。終盤まで一切触れられない。

「アザではなく本人が受け入れられている」という状況なわけで、この場所はマキシムにとってこころ穏やかに過ごせる場所だというのが伝わってきます。

ただ、終盤でついにアザについて触れられてしまいます。。そこからマキシムも改めてアザに苦しむし、アザをいじってしまった人物の苦しみも深まります。。



***


友人の妹の短編映画のために2人はキスしたわけですが、最初2人は強く拒絶します。

そこで彼女は「あなたたちの世代では抵抗あるかもしれないけど、自然なこと。男2人でもいいし。女2人でもいい。」と。

マティアスとマキシムもそうとう若いんだけど、、さらに若い彼女との世代間格差が面白いし、

これは未来への希望として描かれているんだと思います。人間は進化するんだよ、と。




いいなぁ、進化する国は。。退化してる国は嫌だなぁ。。



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『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のときの作文みたいな
結構、、、古典的な感動アイテムもストレートに出してきますね。。


今作でも、、ラストあたりに
24時間テレビ愛は地球を救っちゃいそうなレベルの感動アイテムが突如出てきて
ゴールへ一直線しちゃいます。。


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これは、、、作家性でしょう。。


彼自身ゲイなので「ゲイ要素」が組み込まれるのは自然なこと。
ゲイ要素が入っていることは作家性と言えるほどのことでもない。


毒でもあり愛でもある「母」という存在や
どこまでが真実でどこまでがウソかわからない描写や
前述のような「地球救いそうな感動アイテム」ってのが
彼の作家性かと。


つーても僕これでグザヴィエ映画は2本目なんで、、ごめんなさい。。


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たぶんドラン自身が
そういうストレートで真っ当な感動に飢えてるんでしょうね。


6人以上集まると絶対にその場が混乱して崩壊しちゃうのとか、、
おそらくそんなのばっかりを経験してきたから、
こういうのしか描けないし
ほのぼのとした幸せな食卓なんて絵空事っぽくて描いてられない、、

その分実は凡庸な、小っ恥ずかしいような幸せの形への憧れも強いんじゃないでしょうかね。


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映画監督として、俳優としてバリバリ仕事してるわけですから
まっとうな大人であることはあきらかなんですが、

31歳にしては幼すぎる彼の容姿や
今だ思春期真っ只中のような不安定さが
彼の魅力であり、個性。

それが母性本能をくすぐりまくってるんでしょうね。



***



ドランが主演してるドラン監督映画は今回が初だったんですけど、
クリント・イーストウッドが主演してるイーストウッド監督映画に強く感じる
「ナルチシズム」をちょっっと感じてしまいました。。

これもね、、、しょうがないんですかね。。。

個人的は、、あんまナルチシズム出さないで欲しい。。


でもなぁ、、ここまで作家性のある若手監督なんてそうそういないもんね。。

いいよ、ドランこのままで!やっちゃえ!





ネタバレはコメント欄に。