Hiro

その手に触れるまでのHiroのレビュー・感想・評価

その手に触れるまで(2019年製作の映画)
4.2
「その手に触れるまで/ Le jeune Ahmed」
無垢だった少年が、なぜ過激派イスラムの思想に染まっていったか。宗教による溝は本当に埋められないことなのか。今、急進派の若者が急増するフランスだからこそ描くことのできた作品でした。

「自らの思想と違う」ただそれだけで人を殺そうと思えてしまう、その純粋さに恐怖を覚えます。原題にもあるように、アメッドは若すぎた。この世界は複雑で、理解するのは困難で、絶対的な正しさなど何処にも存在しない。それを彼は分かろうとする前に、「世界はこうだ」と決めてしまった。それが彼の過ちなのかも知れません。

世界で渦巻く陰謀説も、宗教の問題も、元を辿れば同じような過ちから起こっているのかもしれない。世界が抱える問題のその一つ一つに、「一人の人間」が必ず存在することを理解しようとすることまずはそこからなのではないでしょうか。

人は成長していく過程の中で、必ず誰かを遠ざけようとします。その過程の中で、どれだけの人が自分に対して目を向けてくれたか、どれだけ自分に手を差し伸べてくれたか、それで生き方は変わっていくと思います。

アメッドも、「その手に触れたこと」で何かが変わったのかもしれない。もしかしたらそれは一時的なものなのかもしれない。けれど私達がこの地球に生きる人類である以上、誰かを憎むよりも誰かを愛したいと思うのならば、手を差し伸べ続けるべきだと感じます。

テンポよく、緊張感を保ちながら、未だ解決できない困難な問題を真正面から描いた素晴らしい作品だと思います。
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