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その手に触れるまでのrollinのレビュー・感想・評価

その手に触れるまで(2019年製作の映画)
4.5
凶器に満ちた世界

ダルデンヌ兄弟がナポレオン・ダイナマイトを撮ったらこう。前作の問題意識をさらに突き詰め、ムリスムTHUGライフ真っ只中の全力少年を主人公にチョイスした時点で勝ち確。

とにかくイディル・ベン・アディ演じるアメッドの何とも憎めないストイックなキャラ立ち具合が最高!鈍重なボディや間の抜けた会話、高速洗顔&鼻うがい&手磨きといった水場の立ち回りの華麗さ、すぐに先の鋭い得物をGETしたがる厨二マインドからの、トラヴィス・ビックルワナビーなシミュレーションシーンとか最高に愛おしい。本作のベストシーンは、性に貪欲なルイーズとのキス我慢選手権ですね。

死角&無伴奏のダルデンヌ・メソッドは、毎回作品のテーマに絶大な効果を与えるけど、今回はアシッド少年の思春期ならではの視界の狭さに加え、イスラムの教義にがんじがらめな彼の日常を演出するVRゴーグルとして抜群に機能していました。アメッドの気持ちを想像しようとすればするほど裏切られる体験。やっぱダルデンヌ兄弟すげぇ‥。

たとえば、目の前にあるペンやハサミで人を傷つけてはいけませんという当たり前のことを、我々はいつから理解していたんだろう?
盲信はあらゆる常識や前提から飛躍して思わぬ結果をもたらしてしまう。

ムハンマドに限らず、思春期に何かしらの大きな存在に傾倒した経験、洗脳される快感って誰にでもあったと思います。アメッド少年にとっては、それがムハンマドだった訳であり、DTダメダメ日記として彼の行動にも一定の理解が出来る。
父親のいない彼の生活環境や、コミュニティの伝統、歴史といった背景が担保する正当性。背教者の排除に対して、何の疑問も抱かせない純朴搾取なシステムが哀しい。よいこなんだよ。

この映画が描くのは、世界の反対側で断罪される無名のムスリム戦士ではなく、あくまでアメッドというひとりの少年の成長譚。感傷方面に誘導しようとするこの邦題は何だかなぁ‥だけど、監督らしいキレの良いラストには大納得!

イスラム教と聞けば、直ちにテロを連想してしまうように躾られた世界。『レ・ミゼラブル』や『THUG』然り、子供たちに負の遺産を引き継がせてはならないという強いメッセージ。世界中の映画監督が今、同じような意識を持っていることが大変興味深い。
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