ナガエ

シチリアーノ 裏切りの美学のナガエのレビュー・感想・評価

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昔から、男同士の関係というのがよく分からなかったし、しっくりこない。男同士の絆とか友情とか、とかく「当たり前」のように描かれがちなそういうものが、僕にはずっと理解できないものだった。男と関わっている時の方が違和感を覚えることが多かったし、部活の上下関係とか、物語で描かれるヤクザの関係性とか、そういうものには未だにピンと来ていない。

という僕自身の性質も関係しているのかもしれないけど、こういうマフィアの関係性みたいなものが、全然理解できないし、「は?何それ?」みたいに感じてしまうことが多い。

特に理解できないのが、「忠誠を誓う」という概念。本作の主人公であるマフィアの重鎮トンマーゾ・ブシェッタはよく、「コーザ・ノストラに忠誠を誓った」という発言をするのだけど、どういうことなんだろうなぁ。僕の感覚では、組織でも人でも、自分の中で何か失望を感じれば、その組織なり人なりから離れるのは当然だと思うのだけど、どうも「忠誠を誓う」というのは、相手がどうであっても裏切らずに付き従っていく、という感じに思える。そんな不合理なことは、僕には許容できないなぁ。「先輩の言うことは絶対」みたいな不合理さにもどうしても馴染めないから、仕方ないのだけど。

まあ、そういう意味では、その”血の掟”を破って政府に寝返ったトンマーゾ・ブシェッタが主人公だったので、まだ面白く見れたかな、という感じはします。

内容に入ろうと思います。登場人物が非常に多く、状況の設定があまりなされない(イタリアでは説明せずとも伝わる事件を扱っているんだと思う)ので、正直ちゃんとは把握できてないけど。
1980年代初頭。シチリアのパレルモは、全世界のヘロインがここで取引されると言われる地だった。コーザ・ノストラというマフィアに属していたブシェッタは、麻薬の取引を巡って対立する組織との仲裁を試みるがうまく行かず、ブラジルのリオデジャネイロに逃れた。しかしパレルモでは、組織間の抗争が激化。組織の仲間や家族たちが、街中で無残に銃撃されるなどして次々に命を落としていった。パレルモも家族の様子を知ろうと電話するも、彼らは取り乱しており、家族を託してきた組織の仲間であるカロにも、何故か連絡がつかない。
そんなある日、ブシェッタはブラジルで突如逮捕される。苛烈な拷問を受けるものの、”血の掟”があるために裏切ろうとしないブシェッタだったが、イタリアに送還され、ファルコーネ判事と出会ったことで態度を変えることになる。彼は聴取に応じるようになり、487ページにも及ぶ長大な証言をする。それを元に、366名が逮捕され、歴史的な大裁判へと発展するが…。
というような話です。

実話を元にした話は好きだし、面白そうだと思ったんだけど、どうもあんまり消化しきれない作品でした。最初に書いたみたいに、マフィアみたいな男同士の関係性がイマイチ理解できなかったのと、後は、ブシェッタがどうして心変わりをしたのかイマイチよく分からなくて、モヤモヤする部分がありました。ブシェッタの心変わりについては、最後の最後で明かしてはいるんだけど、でもそうだとしたら、もうちょっとその描写を描かないと伝わらないかなー、と。これも、もしかしたらイタリアでは有名な話で、ちゃんと描かなくてもイタリア人は知ってるっていう可能性もあるからなんとも言えないんだけど、ちょっと僕としては理解が及ばなかったなぁ。

個人的に興味が湧いたのは、イタリアの裁判の進め方です。1980年代の裁判だから今は違うのかもしれないけど、裁判の中に「対決」というコーナー(コーナーって表現は変だけど)がある。これは証言者・ブシェッタに対して被告人が、「俺はブシェッタと対決したいぞ!」と申し出て展開される。裁判長を介しつつだけど、証言者と被告人が直接的に話す、みたいな感じで、正直どんな意図があって行われているのはよく分からなかったけど、きっとイタリアの裁判の仕組みにはそういう「対決」っていうのがあるんだな、と。日本ではなかなかお目にかかれない仕組みなんで、面白いなと思いました。

ところどころ、実際の映像が挟み込まれていて、イタリアでの当時の関心の高さがイメージできるな、と。しかし、あんな街中でバンバン銃撃戦とかあったら、一般市民は大変だろうなぁ。
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