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シチリアーノ 裏切りの美学のmrhsのレビュー・感想・評価

4.7
冒頭のダンス、そしてやたらめったら打ち上がる花火。この段階で「あぁこれこそベロッキオだ!傑作に違いない!」と確信する。そしてその確信は間違いではなかった。

ベロッキオのマッドな着想はコメディより、このような超シリアスな物語の中でこそ活きるのだ。

ネタバレになるので、あまり詳しくは書かないが、とある車が爆発する場面、音楽の使い方を含めて「これぞ映画である」としか言いようがない。その他にも奇妙な着想のオンパレードで、主人公の生前葬(みたいな場面、あれは一体なんなんだ)、円状に車が回る逮捕劇などちょっとこれは凄すぎる。

ちなみに2時間半近い尺の割に、奇妙な省略(例えばブラジルにいる主人公とアメリカで保護下にある妻との電話の場面、何故か唐突に妻が裸になっている、さらに言うなら当然保護下にあるので会話は当然録音されているのに!)もあるし、ラストのシークエンスの意味は正直パンフレットを読まないとわからないだろう。

そして彫りが深い画面作りをしているようで、実は被写界深度が浅いカットが多い。それは間違いなく俳優の演技を見せたいからだろう。

そう、この作品を何より特別なものにしているのは俳優の演技なのだ。そしてそれはまるで劇場に見立てられたような裁判所の作りやそこでのやりとりからして明らかだ。

これほど俳優の力を感じる作品は滅多にお目にかかれない。傑作。
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