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ANIARA アニアーラのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ANIARA アニアーラ(2018年製作の映画)
4.2
【泥舟から神を渇望し見捨てられ】
ノーベル文学賞受賞作家ハリー・マーティンソンの代表作の映画化『ANIARA アニアーラ』がAmazon Prime Videoにて配信されていたので観た。これが「今」を象徴する寓話となっており非常に面白かった。

放射性物質で汚染された地球から火星を目指す宇宙船アニアーラ号。船内はショッピングセンターのようになっており、乗客は娯楽に打ち込むことで束の間の閉塞感から逃れていた。その中にAI幻影装置「ミーマ」があった。空間で寝ることで、AIが人の欲望を反映した画を脳裏に投影させるもの。PR担当の女性が宣伝するが、胡散臭さから全然利用されていない。通りかかる人々は半ば嘲笑気味に過ぎ去っていく。

そんな中、アニアーラ号に異変が生じる。飛来物を回避する過程で燃料が全て放出され、火星にたどり着けなくなってしまう。トップ層は、ひとまず2年で戻れると語るが、実際は絶望的な状況である。人々は、現実逃避するように「ミーマ」を利用し始めるが、絶望を過剰摂取した「ミーマ」は自爆してしまう。

本作は現代における信仰を見つめた作品だ。未来が見えず「今」を直視するしかない状況で、その過酷さに耐えられない人が出てくる。人々は現実逃避の存在を神として崇めるようになる。それは夢を見させてくれるAIかもしれない。またカルト教団かもしれない。この泥舟で起こる物語は、信仰の対象が断ち切られた時の人間心理を描くことで「神」の本質を突いている。これはある種プラトンのイデアの理論に近いものがある。我々の住む世界は本当ではないと思い、イデア(=理想)の天界を渇望する。宗教は人々に希望の道を指し示す存在であることが説得力もって本作で描かれるのだ。

今やコロナ禍、世界は激しいインフレに苦しんでいる。地球を巨大な宇宙船と見立てたら、まさにアニアーラ号と同じ状況である。ぬるっと閉塞感を引きずって1年、2年、5年と経過しようとし、絶望に耐えられない人は発狂したり、カルトにハマったりするのである。

本作が生々しいのは、経済的政治的側面にも言及していることである。アニアーラ号が絶体絶命な状況に陥った時にトップ層が会議をする。不味い藻を供給する必要があると結論づけられる。実際には、ポイント制が導入され、高いポイントと引き換えに人材を確保しようとする。また、絶望的状態を乗客に伝えると不利だと考えたトップ層は、絶対に2年で復旧できないことは分かっていながらも、希望を持って伝える。このハリボテの希望にグロテスクな手触りを抱いた。
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