湯呑

エターナルズの湯呑のレビュー・感想・評価

エターナルズ(2021年製作の映画)
4.6
本作にマーベル作品としては初の同性愛者のヒーローが登場すると発表されて以降、公開前から投稿型レビューサイトでは低評価爆撃が繰り返されたらしい。こうした荒らし行為はMCU初の女性ヒーロー映画だった『キャプテン・マーベル』でも行われ、大手レビューサイト「Rotten Tomatoes」がシステムを大幅に変更する事態となった。まあ、そんなバカどもはほっときゃいい、と言えばそれまでだが、やっぱりヒーロー映画を喜んで観ている「オタク」って意識の低い人たちなのかなあ…というより、意識の低い人たちの避難場所になっているのかなあ…としみじみ感じた次第である。自分が他人から許められていない事へのコンプレックスや怒りが、他人への不寛容な態度へと繋がっていく。そんな人間にとって、ヒーロー映画は自分を同化し全能感を得る事の出来る格好のメディアだったのだろう。そうした自己充足的な世界観の中では、異性やセクシャルマイノリティなんて「他者」は不要だった訳だ。もちろん、これもまた別種の偏見である事は分かっているのだが。
私はMCU作品をそれほど熱心に観てきた訳ではないが、確かにこれまでマスキュリンな価値観が支配的だった本シリーズにとって、『エターナルズ』は『キャプテン・マーベル』と並びエポックメイキングと言っていい作品だろう。ジェンマ・チャン(中国系イギリス人)、クメイル・ナンジアニ(パキスタン系アメリカ人)、マ・ドンソク(韓国系アメリカ人)など、多彩な人種の俳優を起用した本作は、劇中に登場するヒーローについても同様の価値観を踏襲し、肌の色、性別、年齢、セクシャリティの異なるキャラクターで構成されている。特に注目すべきはアンジェリーナ・ジョリー演じるセナという女戦士だろう。彼女はエターナル・マッドネスという架空の病を抱え、時々自我を失って暴走する、という設定になっており、これが私たちの世界における精神疾患や認知症を指している事は一目瞭然である。以上のとおり、様々なパーソナリティを有したヒーローが等しく活躍の機会を与えられる本作は、マーベル映画にすらダイバーシティの波が到来したのだと思わせる。本作のバッシングに加担した人々は、己が信じていた世界やその価値観が揺らぐ事に本能的な恐怖を覚えたに違いない。
私たちが他者との差異を乗り越え、どの様に連帯していくか。『エターナルズ』に込められたこのテーマはしかし、実はヒーロー映画に馴染みやすいものの筈だ。様々な能力を持ったヒーローがそれぞれの特性を活かして敵と戦うという設定は、例えば「スーパー戦隊シリーズ」や石ノ森章太郎の「サイボーグ009」を想起させる。一度はバラバラになったヒーロー達が、新たな脅威に立ち向かう為に再結集する、というプロットも様々なマンガやアニメ、ゲームなどでよく見る展開だろう。要するに、本作はネット界隈の底辺で蠢く「オタク」たちが忌み嫌うエシカルなテーマ性をヒーロー映画のプロットへと織り込む事で、逆に「オタク」たちが燃えるベタな展開を用意しているのだ。いかんせん作品の数がまだ少ないので、クロエ・ジャオという監督がどの様な作家性を持っているのか見極められないでいるが、アクション演出のソツの無さなどを見るに、意外に器用な職人監督的資質を持っているのではないか。何となく、アン・リーに似たところがある様に思ったのだが…それにしてもエンド・クレジットの後まで出張ってごちゃごちゃ伏線張るのはやめてくれねえかな。MCUに興味のないこちらとしては鬱陶しくて仕方ない。
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