うえびん

鉄道運転士の花束のうえびんのレビュー・感想・評価

鉄道運転士の花束(2016年製作の映画)
4.2
線路はつづくよどこまでも

2016年 セルビア、クロアチア作品

初めての旧ユーゴスラビア作品。とっても面白かった。作品としては、程よくドラマチックで、程よく寓話的で、程よくブラックユーモアがあって、程よく繊細な心理描写がよかった。鉄道が舞台だから、景色もきれいだった。

主人公イリヤの眼差しが強く印象に残る。鉄道運転士として線路を眺める眼差し。息子シーマの成長を眺める眼差し。喪った恋人ダニツァを眺める眼差し。多くは語らず青い目で語る姿が印象的だった。

列車は、人や物を乗せて運ぶ。”野をこえ 山こえ 谷こえて はるかな町まで ぼくたちの たのしい旅の夢” をつないでゆくのと共に、人を轢き殺す凶器でもあることをあらためて知り考えさせられた。

国土交通省の発表によると2017年度の鉄道事故件数は665件、うち死亡者数は279件。この数字には自殺によるものは含んでいないので、実際、鉄道運転士が人の死に関わる事故は1日1件くらいは起きているのだろう。事故とはいえ、罪の意識を抱えたまま職務を続けていくのは、さぞかし苦しいだろうと、初めて鉄道運転士の職務の厳しさを想像した。

ちなみに『線路はつづくよどこまでも』の原曲『I've been Working on the Railroad』は、19世紀のアメリカで大陸横断鉄道の建設労働者たちが歌った曲だそう。日本語の訳詞とは違って、”仕事や労働”といった内容が歌われている。先人の過酷な労働の結果、世界各地に鉄道が敷設され、現代の私たちが便利に移動できているということ、それも心に刻んでおきたい。

線路がどこまでも続いてゆくように、人生も幾度かの岐路を経ながら続いてゆく。鉄道運転士の仕事も、祖父から息子、孫へと受け継がれてゆく。舞台も物語も新鮮で面白い作品でした。
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