銀色のファクシミリ

朝が来るの銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

『#朝が来る』(2020/日)
劇場にて。原作未読。養子と暮らして6年が過ぎたある夫婦。彼らの前に突然現れた、生みの母だという女は何者なのか。その謎を明かしていく二つの過去の物語。そして結末に至って、なにを描いた物語かと分かった時の感慨。139分を長いと感じさせない力作でした。

感想。最大の謎は「栗原夫妻の前に現れた女の正体」であり、原作はミステリ小説なので文字情報しかないから、読者にその正体を隠せる。しかし実写映画ですから、映像情報を観客に見せなければならない中で、女の正体を本当に上手く隠していると思います。物語を最後まで牽引し続ける力がありました。

でもこの映画がスゴイのが、この謎を置いてけぼりにしてしまうほどに物語に引き込まれる点。前半で栗原夫妻が養子を迎える心情と経緯を描き、後半で生んだ子供を手放すしかなかった片倉ひかり(蒔田彩珠)の半生を描く。特に後半、河瀬直美監督の演出力と蒔田彩珠の演技力の相乗効果には時間を忘れるほど。

好きな相手との子供を身ごもってしまった14歳の女の子。間違いなく愛情の結晶だけど、周囲は責任のとれない子供同士の過ちとしか見ない。相手も家族も頼れない、厄介者になってしまった自分とお腹の子の寄る辺なさ。

14歳の少女が経験する恋と幸せ、動揺と悲しみ、そして母親としての喪失を抱えて生きていく片倉ひかりという女性の人生の物語を、ただただ見入っていました。これを演じ切れる蒔田彩珠、新たな代表作の誕生だと思います。結末の感想はふせったーにて。とりあえず感想オシマイ。

『#朝が来る』ネタバレ感想。
自分の心情を語ることなく変わっていく片倉ひかり。彼女はなぜ変わっていくのか。

「生みの母親を名乗る女の正体」という謎以上に、引き込まれるのは片倉ひかりの半生。相手も14歳、家族は過ちを清算して「原状回復」しか考えていない。ベビーバトンの施設に入って一時の安息を得るも、周りの母親たちは妊娠に困り果て、我が子を手放すしかないと考えている。自分は好きな相手との愛情の結晶であり、彼女自身の真心の結晶でもある。

我が家に帰ってきて、なんとなく姉の高校制服をあわせる彼女。あの熱のない表情から、ひかりは「原状回復」などしていないことが伝わる。彼女は恋と妊娠と出産を経て「子供を失った母親」になったのだ。そして埋まらぬ喪失を抱えたまま彷徨する。

片倉ひかりには何が必要だったのか。「生んでくれてありがとう」と彼女に云う存在だったのだと思います。片倉ひかりという女性が妊娠が判明してから6年間、誰も彼女に云わなかった。そして初めて彼女にそう云って寄りよってくれたのは、同じ我が子への愛情という共通項で繋がった育ての母親。彼女からの感謝と、なにより我が子からの言葉で彼女は救われ、これからの人生を歩めるのだと思います。いいラストでした。追記もオシマイ。

#2020年下半期映画ベスト・ベスト主演俳優
蒔田彩珠/『朝が来る』
若くして妊娠し子供を養子に出した女の子。周囲はこれで元通りと思っていたが、彼女は我が子を失った母親になっていた。深い喪失感を抱えたまま、どんな人生を送ることになるのか。全編を牽引するのは蒔田彩珠の生き様の演技でした。