柏エシディシ

カセットテープ・ダイアリーズの柏エシディシのレビュー・感想・評価

4.0
鬱屈とした日々を過ごすパキスタン系英国少年の葛藤をブルース・スプリングスティーンのロックが撃ち抜く青春映画

お話の骨組みは監督の出世作「ベッカムに恋して」と同じだけれど、不況下で極右勢力が台頭し分断が進む時代という今日的な射程を捉えて作品としての強さはより増している。
「誰もが勝てなければ、それは本当の勝利とは言えない」

また、保守的なアメリカのミュージシャンと誤解されがちなボスの音楽が国境や人種、時代を越えて普遍的なテーマをたたえていることを証明してみせ、ロックという音楽の変わらぬ魅力と有効性も明らかにしてくれる。
主人公が荒天の中ロックに目覚めるシーンは音楽に恋に落ちた瞬間を知る人は皆共感し胸震えることだろう!

80年代の回顧的音楽青春映画としてジョン・カーニーの傑作「シングストリート」と既視感はあるけれど、終盤の展開は、ある面でシングストリートを越えていると言えると思う。
(パンフレットの町山さんコラムに「その後」の物語が……エライぞ、ジャベド!いやマンスール!)

「韻も踏んでねぇよ!」というセリフにはついつい苦笑してしまったけれど、ボスの楽曲、特に歌詞の魅力を補完してくれる演出や物語でファンやボス本人も納得でしょう。
自分は「ネブラスカ」が好きなアルバム。

唐突ですこしばかりファンタジックなミュージカルパートに胸高鳴りながらも戸惑うのだけれど、ラストカットに、この物語自体を「そう」捉えられるのだなぁと思って、日常と格闘しながら生きる少年達や観客へのエールの様な幕切れの様に感じた。
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